第2話 ストーカー

 私は、小学校の時から、男性なのに男性のことが好きだった。怒られるかと心配したけど、どうしても相談したくて、女性になりたいって父親に話した。そうしたら、女の子が欲しかったのに、母親が亡くなって無理だと思っていたと大歓迎された。こんなに簡単に受け入れてくれるのは、びっくりだったけど。


 父親は、声変わりする前に、体を手術した方がいいって言い始めた。そして、普通は、切ってそれっぽく手術するんだろうけど、どうやって見つけてきたのか、死んだばかりの女性から、子宮と、女性器を私の下半身に移植したの。


 びっくりだけど、お金の力ってすごいわね。皮膚移植とかで、傷も全くわからなくなった。そして、戸籍でも女性として登録し直して女性として再デビューすることになったわ。名前は沙奈に変えた。


 1年ぐらい学校は休んで、女性として後輩の3年のクラスに復帰し、1年遅れだったけど女子高に入学した。本当は共学がよかったんだけど、父親から、女性のことを学んでこいと言われて、断れずに女子高生になったの。


 子宮から女性ホルモンが出ているせいか、どこから見ても女性としか見えないスタイルに成長していったの。


 発達するバストって、こんな感じなのね。なんか先が痒いし、何かぶつかると痛い。そして、お尻は膨らみ、ウェストが絞られて、女性になっていく毎日が嬉しかった。毎日、学校から帰ると、鏡の前で裸になり、ずっと自分の体に見惚れていた。


 そのまま系列の女子大に入り、3年の時、大学の正門近くの道端で素敵な男性を見つけたの。こんな人に愛されたいと夢中になっちゃった。夢にも、よく出てくるようになって、私をぎゅうっと抱きしめてくれた。一目惚れって、こういうこと言うのかしら。


 でも、彼には彼女がいた。それも彼女は、私と同じ大学の同級生。だから、私の大学の正門近くを歩いていたのね。それから、毎日のように2人のあとを追いかけた。感染症対策のようにマスクをつけて、帽子を深々とかぶって歩いたから、2人には気づかれなかったと思う。


 大学3年のクリスマスでは、2人はディズニーランドに行ったから、その後をずっとついて行った。周りから見ると、女性1人でディズニーランドの中をうろうろしている人だって、奇妙に思われていたかもしれないわね。


 また、2月の寒い日、隆一は、滑って池の中に飛び込んじゃった。意外とそそっかしいのね。笑っちゃったけど、寒そう。横にいる女、早く、コートを脱いで、彼を温めてあげなさいよ。本当に、何もできないんだから。


 それからも1年ぐらい、毎日のように2人の後ろを歩いた。秋の銀杏並木では、密かに2人の写真をとって、彼女の顔だけ私に合成して、一緒に歩いた記念だってフォトスタンドにして机の上に飾ってみた。


 そんなフォトスタンドも増えて、父親から、彼ができたんだねって冷やかされたの。そうなの、とっても素敵な彼なんだからと自慢しちゃった。でも、父親には、自慢のお父さんだと思ってるよって言っておいた。


 ある日、飲んで帰る道で、2人はキスをしていた。なんてことなの。この私がいるのに、こんな女の汚い唇に触れるなんて、本当に気持ち悪い。この女のどこがいいのよ。


 確かに顔は可愛いわ。でも、大学で女性と話すときはぶっきらぼうなのに、隆一と話すときは声が1オクターブぐらい上がって、あざとい。こんな裏表がある女だって気づいてよ。


 そして、それから1ヶ月ぐらいしてから、2人はラブホに入っていった。1時間半ぐらい外で待っていたら、2人が腕組んで笑いながら出てきた。あの女、汚い体で、隆一のこと汚さないで。


 この世から、あんなメス豚はいなくなってしまえばいいのよ。どうして、隆一は、彼女の醜い姿に気付かないの? 本当に人を騙すのがうまいメス豚なのね。隆一が悪いわけじゃない。


 多分、あのメス豚、体で隆一を誘惑したのよ。あんな醜い心だと、それしか、使えるものないもんね。そんな汚い体で隆一を汚さないでよ。あんたなんて、この世から消えればいいのよ。


 毎晩、その女の写真をナイフで突き刺す時間が増えた。こんな女が世の中にいることが間違っている。毎晩、あの女が電車に轢かれ、脳が飛び散る姿を想像していた。


 そんな中で、大学の廊下で、私がその女をすごい目つきで睨んでいるって噂になっていたらしい。それは違うわ。親族が傷つけられたら、あなただって加害者を憎むでしょ。


 でも、2人が腕組んで歩いている日々は続いた。隆一は、優しいから、あんな女でも別れようと言って、悲しませたくないんだと思う。私が、隆一のために、なんとかしないと。隆一の生涯の伴侶として、あの女と別れさせてあげる。


 隆一と、結婚して、子供ができて、子供の結婚式を迎えてなんていう幸せの日々の夢に、毎日、浸った。邪魔なのは、あのメス豚だけなんだけど。

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