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 ミナモちゃんの登場でバタバタしたが、その日の撮影は無事に終了。ミナモちゃんは明日からの準備があるからと、メイドさんに引きずられて帰って行った。


 それを笑顔で見送っていた俺と小雪も、東さんに訓練場まで引きずられていき、午後は丸々訓練の時間。つまるところいつも通りだった。



「中里くん、明日のスケジュールを説明させていただきますね」

「へ?スケジュール?」


 訓練が終わって汗を拭っていると、改まって大間々先生が告げてきた。


 毎日毎日訓練して食事をするだけだから、わざわざスケジュールを確認する必要なんてないはず。


 改まって確認するってことは、なんか厄介事に決まってる。ここは巻き込まれる前に撤退したいところだ。


「あ~、明日も朝練ですよね。朝早いから、もう寝ますよ~」


 やや棒読みになりながら、そんな台詞で席を立とうとしたところに、大間々先生は両手で俺の肩を押さえつけた。


 必死に立ち上がろうとするのだが、俺の尻は椅子に触れたまま離れることができない。


 この人、魔法使いのくせに筋力のステータス俺より圧倒的に上だってことか?異世界帰りは脳筋ゴリラばっかりなのか!


「それでは、明日のスケジュールを説明しますね?明日は午前10時よりミナモ姫殿下が正式に学院に移られます。複数の貴族家も同様のタイミングでやって来るようですね。中里くんには、フォルティア王国日本国大使、ナカサト公爵の名代としてお出迎えをしていただきます。その後、午前11時よりサランド王国第二王子のお出迎え。昼食はミナモ様と共にしていただき、その後はフォルティア王国貴族の子どもたちとお茶会。休憩と着替えを挟んで、夕食はサランド王国第二王子と共にしていただきます」

「・・・・・・なんて?」

「詳細は端末にPDFの形式で送っておきますので、確認しておいてください」


 いやいやいやいや!


 さも当たり前のように言ってくれてるけど、それ本当に俺がやるの?こちとらごくごく普通の一般庶民なんですけど?


 王族とか貴族とか、そんな国賓の対応を平凡な高校生に任せるなよ!


 ミナモちゃんの相手くらいなら、身内だから不手際があったって許されるだろうけどさぁ。


貴族家の坊っちゃん嬢ちゃんっていうのは、ラノベやアニメなんかだと大抵がふんぞり返ったクソガキどもだ。動画配信者のクソガキどもが可愛く見えるほどの糞餓鬼だ。そんな奴らに『おいおい、この国では下賎な者と卓を囲むのか?』とか、『おい、ゴミごときがこの僕と対等のつもりか!』とか言われたら、我慢できるかな?


 平凡な俺にだって、我慢の限界や怒りという感情はしっかり基本装備されてるんだからね!


 そも、マナーとかだって全然知らないし。せめて地球の社交マナーでも知っていれば・・・・・・


「ふわぁあ」


 頬杖をつきながら、大きな欠伸をしている小雪が視線に入る。


「大間々先生、それって、同伴者がいても大丈夫なんですか?」





「本日は遠いところ、ようこそお越しくださいました。我が国は、姫殿下の来訪をこころより歓迎いたします」

「いたします!」


 深く腰を折って頭を下げる小雪に続き、俺も慌てて頭を下げる。頭を上げたら小雪がまだ深々頭を下げていたので、どうしたものかと考えていたら小雪が頭を上げて、こちらを一瞥してから、賓客に視線をもどした。


「歓待、ありがとうございます。母の祖国の地を踏むことができたこと、私も嬉しく思います」


 賓客であるところのミナモちゃんも、スカートの端を掴んで小さく膝を折る。


「それでは、お茶の用意をしておりますので」

「こちらにどうぞ!」


 とりあえず滑り出しは順調?それもこれも、全部小雪のおかげではあるんだけど。


「小雪、本当に良いところのお嬢様だったんだな」

「いや、良いところじゃなくてもあれくらいの挨拶なら誰でもできるから。っていうかまだ挨拶しただけなんだからね?」

「あ、はい」


 普通の高校生に、あのレベルの所作の挨拶を要求されても困るんですけど?


さっきの挨拶、どっかの旅館の女将さんみたいだったよ。もしかして小雪の実家って、老舗旅館だったりするんだろうか?


「それでは、こちらにお入りください」


 小雪がドアを開けて、一歩後ろに下がった。それを見て、俺もバックステップを使って後ろに下がる。


「ぷぎゃ!ちょっとお兄ちゃん!そんな勢いでぶつかってこないで!」

「あ、うん。ごめんね?」


 やっぱり俺には、社交のマナーとかムリだわ。




「というわけで、この後の貴族の出迎えなんてムリだから」


 一端、歓待は中止して通常モードに移行。豪華なソファーに深々と体を放り出した。すでにミナモちゃん付きのメイドさんがお茶の準備をしてくれている。


「そうだよね~、私もさすがに他国の貴族様の相手はムリだよ~」

「あの、私も貴族というか、王族なのですけど」

「ミナモちゃんはなんというか、ねえ?」

「昨日のアレを見てるし、ごっこ遊びみたいな感じだったよね~」

「ごっこ遊びって・・・・・・一応私、貴族社会の頂点だったんだけど」


 貴族社会の頂点が、結婚したくないからって俺みたいな奴に抱き着いてピーピー泣いてちゃダメでしょ。


「そもそもだけど、国賓のお出迎えを俺がするのおかしくない?この国では俺、ただのサラリーマンの息子だよ?国のお偉いさんが歓待するのが普通だよね?」


 当然の疑問を口にしたところで、なぜかミナモちゃんはコテンと首を倒す。


「歓待なら、もうしてもらったよ?この国の皇族の方にもあいさつしてもらったし、スシー、スキヤキーテンプーラも食べさせてもらったよ。あとあそこ、富士○ハイランド?ってところにも連れてってもらった!見てないのは、ハラキリーくらいかなぁ」


 何そのちょっと勘違いした外国人観光客が並べ立てそうなラインナップ。しかも富士山じゃなくて富士○連れてくってどんなチョイスなんだよ。


 皇族の方々とあいさつしてたってのには驚いたけれども。


「えっと、それじゃあもう、歓待とかいらないんじゃない?」

「まあ、出迎えとかはこの学院の長がすれば良いわけだし、お兄ちゃんが出迎える必要はないよね。一応、お兄ちゃんは公爵家の嫡男だし」


 そう言って、優雅に紅茶を口に運ぶミナモちゃん。こういう仕草だけでも、育ちの違いが出るもんだな。


「だったらなんで、俺が出迎えに?」

「顔見世って意味が強いかなぁ?この人が新しい公爵の子息だから、ちょっかいかけるんじゃねえぞって。ちゃんとあいさつしておけば、爵位が下の貴族家はほいほい手は出せないからねぇ」


 先にあいさつさえしておけば、俺が公爵の息子だと知らなかったといって手を出すことができないということか。


 いや、いくら貴族だからって、一生徒に危害を加えるのもダメでしょ。法治国家なめるなよ?


「交流が目的なのに、そんな横暴な貴族が来るの?そんな奴留学生に選ばないと思うんだけど?」

「ま、まあ、普通はそう、だよね~」


 なんで目を逸らすんだよ。心当たりがあるってか?こちとら血気盛んな思春期高校生の集まりやぞ?横暴な態度とられて、へこへこしてられるやつばかりだと思うなよ?


 俺は大人な対応ができると思うけどね。


 この後、ミナモちゃんとお茶を飲みながら対応について話し合った。


 フォルティア王国の貴族の出迎えは、ミナモちゃんが同伴して、俺をみんなに紹介してくれるそうだ。


 サランド王国の王子様も、一緒に出迎えてくれるとのことで、肩の荷が物凄く軽くなった。


「言質取られないように、私も一緒に行くからね」


 小雪も同伴してくれるんなら、怖いものなしだな。






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