第2話 金貨とエルフ

「私はカモミール・ルムフェです」


「俺は松永裕也だ」


彼女はカモミールという名前らしい。

カモミールは運ばれてきたアイスコーヒーを、一口飲んで顔をしかめた。

ブラックはお気に召さなかったようだ。


「これとこれをコーヒーに入れるんですよ」


俺はアイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れて見せ、ストローでかき混ぜる。


「そうやって飲むのですね」


初めて見る物の様で反応が面白い。

ストローで少しずつ飲んでいるようだ。


「甘くなった・・」


カモミールの顔が少しほころぶ。



****



アイスコーヒーを飲み終わり、しばらく無言が続く。

カモミールはうつむいていた。

俺はメモ帳を一枚破り、地図を描いた。


「この地図に書いた交番に行ってみてください。お金はここに置いておくから、俺はこれから帰らないと・・」


(冷たいようだけど俺悪くないよな?)

二千円をテーブルに置いて、立ち去ろうと腰を上げる。

俺の腕に、カモミールがしがみついた。

胸が腕に当たる。


「お願いします。泊めてくれませんか?」


胸の柔らかい感触が腕に伝わる。

じっとキレイな瞳でじっと見つめられた。

ドキドキしてしまった。


「少しなら・・いいよ」


勝手に口から言葉が出てしまっていた。



****



「はぁ~」


俺はため息をついた。

どうしてこんなことになったんだろう。

一緒に電車に乗る。


俺は家にカモミールを連れて帰ることにした。

普通電車では時間がかかるので、新幹線に乗ることにして。

幸いにも高崎で降りれば、家は近くにある。


カモミールは目立ちすぎるからなぁ。

一人だったら、寝ながら帰るところだったのだけど。

日が落ちてきて、周囲が暗くなってきた。



家の鍵を開けて、電気を付ける。


「今の魔法?じゃないのね」


どうやら電気の事を言っているらしかった。

異世界は電気の無い世界のようだ。


「ここだと当たり前だから、慣れたほうが良いかもな」


今日は疲れた。

夕飯は・・めんどい。

何か注文して頼むか。

スマホでピザ屋に電話する。


「はい、サイズはLであとコーラ二つもお願いします」


しばらく彼女と同居することになるのか。

部屋はいくつか余っているので、どこかに寝てもらうようにすればいいか。


「あっ!お金払わないと・・」


カモミールは腰につけていた革袋から、金貨を出した。


「それ、ここじゃ使えないから」


「そうなんですね・・どうすれば・・」


「お金は返さなくていいよ。一人増えたところでお金は十分あるから心配ない」


これは本当の話だ。

両親の遺産のお陰で、お金のことは心配しなくても良い。


「そうだな・・しばらく一緒に住んでくれるだけでいいから」


思い付きで口から言葉がするりと出てきた。

一人だと寂しい。嘘ではない。

そればかりはどうしようもない。


一緒にピザを食べて、コーラを飲む。


初めて見る食べ物みたいで、目をまん丸くしている。

もぐもぐ食べている姿は、普通の女の子なんだけどな。


「わ!しゅわしゅわしてる!」


コーラの炭酸にびっくりしている。

意外と子供っぽい。

わくわくしている様子が楽しそうだ。


カモミールが泊まる部屋は、母さんが使っていた部屋を使ってもらう事にした。

自室に戻り、俺はせっかく買ってきたマンガを読もうとしたが・・何故か読む気になれなかった。


「まぁ、明日でも読めるし」


マンガは机に置いて俺は布団に潜り込むことにした。

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