第13話 攻撃アイテム

「ともかく、スパチャの事は横に置いて、ダンジョン探索とやらを始めるか」

「そうですね。やっていきましょう!」


 スパチャのことは忘れて、レオンたちはダンジョンを進み始めた。


「ところで、ダンジョンにはどんなモンスターが出て来るんだ? 前回のようなドラゴンか?」

「いやいや、あんなのは出てきませんよ。極稀に起きる異常現象です。このダンジョンならゴブリンとかが出てきますね」

「ふむ……噂をすれば、だな」


 レオンたちが歩みを進めていると、行く道に五匹のゴブリンがたむろしていた。

 まだ、こちらには気づいていないらしい。

 つるはしをカンカンと壁に叩きつけている。

 なにか掘れるのだろうか?


「レオン様、また剣を使って『ズババババ!!』っとやっちゃってください!」

「いや、今回は違った戦い方をしよう。そのために魔法都市に行って仕入れもしてきた」


『魔法都市!?』

『おー、ゲームに出てきた場所だよね。色々なアイテムが売ってた思い出』

『またゲームのアイテムを見せてくれるのかな?』


 レオンが手を出すと、そこに現れたのは透き通るような灰色の石だ。

 しかし、ただの石じゃない。

 透き通った石の中では、ぐるぐると黒い煙が渦巻いている


「それって『ノームの落とし物』ですか?」

「その通りだ」


 『ノームの落とし物』は『ブレイブ・ブレイド』に出て来る消費アイテムだ。

 使用すると、敵の素早さを下げて、さらに攻撃が命中しやすくなる。

 ちなみに、ノームは土属性のモンスターだ。

 そのノームから入手した素材を使って作られるから、このような名前になっている。


『すげぇ、ゲームで見たまんまだ……』

『ゲームのレオン様も、アイテム使って来たよなwww』

『アイテムが強すぎてイラつくけど、こっちも使えるから文句が言えないという……』


「さて、ノームの落とし物の効果を見せてやろう」


 レオンは『ノームの落とし物』をゴブリンたちに投げた。

 パリン。

 『ノームの落とし物』は地面に落ちると割れる。

 その瞬間、周囲に黒い煙が広がると空気が震えた。


「グギャ!?」


 そしてゴブリンたちは重い岩に潰されるように地面に転がった。

 必死にもがいているが動けない。


「これが『ノームの落とし物』の効果だな。周囲に強い重力を起こして動きを鈍らせる。実際のノームも似たような魔法が使えて、鉱山などで崩落事故が起きると『ノームがいたずらをした』なんて言われることもある」


『ほえー、こんな効果だったのか……』

『実は攻略本によっては説明が書いてあることもある』

『つか再現度がスゲェ……どうやってんだwww』


 レオンはさらに別のアイテムも取り出す。

 次に取り出したのは、瓶の中にメラメラと炎が燃えているアイテムだ。


「今度は『炎竜の吐息』ですね!」

「当たりだ」


 レオンはこれもポイっと投げる。

 ゴブリンたちの近くに落ちると、割れた瓶から炎が噴き出した。

 ゴウゴウと炎が燃え広がると、ゴブリンたちは重力に押しつぶされて逃げることもできない。


『えげつねぇ……!?』

『動けなくして燃やすとかヤバすぎでしょwww』

『アイテムコンボwww』

『流石は冷酷無慈悲な伯爵様。素敵です!!』


 視聴者もアイテムによる戦闘を楽しんでくれているらしい。

 わざわざ買ってきたかいがあるものだ。

 レオンも満足しながら、光の粒子となって消えていくゴブリンたちを見つめる。

 しかし、炎の奥から大きな影が現れた。


「グオォォォ!!」


 ブン!!

 突風が吹き荒れると、広がっていた炎がかき消える。

 プスプスと焦げた地面の奥には、こん棒を振りかぶった巨大なゴブリンが立っていた。


「あわわ!? 『炎竜の吐息』が……ドラゴンの炎のはずなのに!?」

「いや、『炎竜の吐息』はただの商品名だ。本物のドラゴンとは関係ない」

「えぇ……」


『それは草』

『箔をつけるための商品名だったのかwww』

『まぁ、ブラックタイガーとかも虎じゃないし……』

『有名なエナドリにも、牛やらモンスターやらが入ってるわけじゃないからなwww』


 巨大ゴブリンは、レオンを睨みつけるとドシドシと足を動かす。


「ふっ、丁度良いな。もう一つ見せたいアイテムがあったのだ」


 次にレオンが取り出したのは、手のひらサイズの麻袋だ。

 レオンは麻袋に手を突っ込むと、じゃらりとビー玉のような物を取り出した。


「え、なんのアイテムですか?」

「見ていれば分かる」


 レオンはビー玉をぱらりとまき散らした。

 すると、地面がボコボコと動き出してビー玉にくっ付き始める。

 ボコボコと岩が集まると、あっという間に人型を作り出した。


「これ、もしかして『ゴーレム』ですか!?」

「そうだ」


 ゴーレムはゲームで出てきた雑魚敵だ。

 今のように魔法で作られた人形で、周囲の物質を巻き込んで作られるためステージによって性質が変わる。

 見た目を変えて何度も出てくるので、印象に残りやすい敵だ。


『おぉ……ゴーレムってこうやって作られてたのか……』

『ゲームでも味方にしたかったわwww』

『いや、これどうやって作ってんだ? あんなビー玉みたいな道具で、こんな人形が作れると思えないんだけど……』

『まぁ、スキルとかで上手いことやってるんだろ?』


「ゴーレムたちよ、あのゴブリンの足止めをしろ!」


 レオンが命令をすると、ゴーレムたちはドシドシとゴブリンに向かって行く。

 しかし、しょせんは岩を固めただけの人形なので動きは鈍い。


「グオォォ!!」


 ゴブリンがこん棒を振るうと、簡単にゴーレムたちは吹き飛ばされていく。

 だが、ゴーレムの強みは数と耐久性だ。

 一体や二体が吹っ飛ばされても、続々とゴーレムたちはゴブリンに襲い掛かる。

 さらに吹っ飛ばされたゴーレムにもダメージはないので、すぐに起き上がってゴブリンに迫る。

 押し寄せて来るゴーレムに、ゴブリンはたじたじだ。


「このままなぶり殺しでも良いが、せっかくなのでもう一つくらいアイテムを見せてやろう」


 レオンが取り出したのは黒い石だ。

 バキバキとひび割れており、割れた隙間からは熱が溢れるように真っ赤な光が漏れている。


「吹っ飛べ!」


 レオンが石をゴブリンに投げる。

 ドッガァァァァン!!

 小さな石はゴブリンに当たると、ゴーレムたちを巻き込みながら爆発を起こした。

 吹き飛んだ後にはゴブリンは跡形も残っていない。魔石だけが転がっていた。


『ゴーレムゥゥゥゥゥ!?』

『まぁ、ゴーレムはコアが無事なら大丈夫だからwww』

『明らかにオーバーキルで草』

『爆発はロマン!!』


 ちなみに、ゴーレムたちは無事である。

 しかし、ジッとレオンを見つめる顔はどことなく不満げに見えた。


「どうだ。アイテムを使った戦闘も面白いだろう?」

「良いですね。取れ高はバッチリです!」


 アイテムによる戦闘は、画面に変化があって面白い。

 若葉からもお墨付きを貰えたようで良かった。


「このまま、じゃんじゃんモンスターを倒していきましょう!」

「任せておくと良い……うん?」

「あれ、どうかしましたか?」

「……なにか聞こえないか?」


 タッタッタッとリズム良く音が鳴っている。

 これは足音だろうか?

 レオンが耳を澄ましていると、足音は少しずつ近づいてきている。


「……何かが近付いてきている」

「もしかしてモンスターですかね。爆音に引き寄せられてきたとか?」

「その可能性が高いな」


 話している間にも足音は近づいてくる。

 もうすぐ近くだ。

 レオンは足音の主が飛び出してくるであろう曲がり角をジッと見つめる。


 バッ!!

 レオンは飛び出してきた影に攻撃しようとしたが、とっさに止める。


「やっと見つけた!!」

「……誰だ?」

「知らない女性ですね?」


 飛び出してきたのは、長い紺色髪の女性だ。

 なにやら白衣を羽織っている。

 医者のような雰囲気ではないが、なにかの研究者だろうか。


 年は若葉より少し高いくらい。おそらくは二十台前半。まだ大学生くらいだろうか。

 走って来て疲れたのか、彼女は『はぁはぁ』と息を荒げながら、両手でレオンの肩を掴んだ。


「さっきから使ってる魔法機を私に見せてください!!」

「お、おう……?」


 いきなりやって来た美人の鬼気迫る叫びに、流石のレオンもたじたじだった。

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