第3話 トレンド入り

「ふむ……ダンジョン配信とはなんだ?」

「え、ダンジョン配信を知らないんですか……? あ、そうですよね。レオンハルト様はダンジョン配信なんて知らないですよね!」


 いや、本当に知らないのだが……。


 しかし、女性や視聴者たちは、レオンの事を『レオンハルトのコスプレ』をしているコスプレイヤーと認識しているようだ。

 そしてレオンの演技として、『ダンジョン配信が分からないフリ』をしていると思っているらしい。

 ややこしい……!!


「まず、ここは日本っていう国で、レオン様たちが暮らしている世界とは違う世界なんです」

「ふむ……これを使ったせいか?」

「うわ⁉ ラールの模型ですか……気合入ってますねぇ」


『すげぇ……攻略本でみたまんまだ……』

『めっちゃ金かかってそう……』

『何者だよこの人www』


 ラールを使って日本に来たのはレオンの意思なのだが、ここは偶然異世界に転移してしまった『レオンハルト』として振舞おう。

 そっちのほうが、手っ取り早く話が進みそうだ。


「そうですね。ラールの転移効果を使ったせいだと思います」

「それで、ダンジョン配信とはなんだ?」

「ダンジョン配信は、日本に出現する『ダンジョン』ていう異空間を冒険して、その様子を『配信』……この魔法の道具を使って皆に見てもらうことです」

「日本……ダンジョン……」


 日本に出現するダンジョン。そんな物は前世でも知らない。

 もしかすると、転生してから十五年の間に何かがあったのだろうか……その辺は少しずつ知っていく必要がありそうだ。


 そして、配信に関してはギリギリ分かる概念だ。

 ちょうど十五年前に、とある動画投稿サイトで『個人による生放送配信』が実施されていた。

 当時は実験的な試みだったが、ある程度は一般的になったのだろう。


(俺も『ブレイブ・ブレイド』の実況動画とか投稿してたからな……あのまま生きてれば配信もやってたかも)


 肉声ではなく、フリーの人工音声ソフトを使ったものだ。

 四苦八苦して編集をして、収録を合わせれば丸一日をかけて投稿していた。

 懐かしき青春の一ページである。


「なるほど、ダンジョン配信に関しては理解した」

「良かった。他にご質問はありますか?」

「そうだな……貴様の名前を教えて貰おう」

「レオン様に名前を聞いてもらえるなんて光栄です! 私の名前は『わかば』です。ダンジョン配信者やってます!」


 わかばと名乗った女性は、レオンよりも少し年上に見える。

 大学生くらいだろうか。

 彼女からは今後も日本について教えて貰いたい。

 前世の知識だけでは、現代の日本について分からないことが多すぎる。


「よければ、配信とやらが終わった後でも、日本について教えて貰いたいのだが」

「はわわ……推しのレオン様にお誘い頂けるなんて、光栄です!」

「推し……?」

「あ、凄く大好きってことです」

「なるほど……」


 十五年も経つと、言葉も変わっているようだ。

 まるでタイムスリップでもした気分である。

 あるいは刑務所から出所した直後。


「それじゃあ配信は切るので、ファミレスあたりでお話をさせてください!」

「分かった」


 その後、わかばは『ごめんね。レオン様は私が独り占めしちゃうから!』などと言って配信を切っていた。

 配信が終わった後も、ホクホク笑顔でレオンに話しかけて来る。


「モンスターから助けてくれた上に、ロールプレイまでしてくれてありがとうございます! おかげで配信が盛り上がっちゃいましたよぉ。わっ!? 見てください。SNSのトレンドにまで乗ってますよ!?」


 わかばは、スマホの画面を見せて来る。

 そこにはランキングのような物が映されており、一位には『レオンハルト』の文字。

 よく分からないが、どこかで話題になっているようだ。

 しかし、そのことは横に置いておきたい。


「……まず、一つだけ言っておきたいことがある」

「なんですか? 今なら何でも聞いちゃいますよ?」

「俺は本物の『レオンハルト・ストレージア』だ」


 レオンの見立て手では、わかばは信用できる人だ。

 伊達に十五年間も、腐った貴族社会で生きて来ていない。

 ある程度、人を見る目はあるつもりだ。


 しかも、わかばには『命を救った恩』もある。

 異世界について打ち明けても、問題ないだろうと踏んだ。


「え……? あはは……そうですね。本物そっくりです!」

「違う。本物だ」

「あ、あははは……」


 わかばは困ったように苦笑い。

 当然だろう。

 コスプレした奴が、『俺は本物なんだ!』と言ってきたら反応に困る。


「信じられないか、それなら証拠を見せよう。手を貸せ。エリシア、握ってやれ」

「はぁ……」


 わかばは困惑しながらも手を差し出してきた。

 レオンはエリシアと手を繋ぎ、エリシアにはわかばの手を握らせる。

 そしてラールを起動すると――ギュン!!

 来た時と同じ音が鳴って、レオンたちは屋敷へと戻っていた。

 試しにやってみたが、問題なく日本から戻れるようだ。


「え!? な、なにこれ……!?」

「騒ぐな。戻るぞ」


 ギュン!!

 再びレオンたちは洞窟へ。

 わかばは体験したことが処理しきれないのか、呆然と虚空を見つめている。


「今のが俺の屋敷だ。信じる気になったか?」

「ア、アナタ、ホンモノ?」

「そうだ。本物のレオンハルトだ」

「……ほえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 洞窟にわかばの絶叫が響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る