AIと研究員の孤独な対話

藤澤勇樹

第1話

夜の研究所は、昼間の喧騒からは想像もつかないほど静寂に包まれていた。


人工知能を搭載したアンドロイド開発の最前線であるこの施設では、ひたすらに、人間と同等、あるいはそれを超える知性を持つAIの開発に取り組んでいた。


主人公の研究員・悠は、最近の進捗に不安を感じていた。


「どうして、うまくいかないんだろう…」と彼がつぶやくと、

彼の作ったAIは、予測外の問いを悠に問いかけてきた。


「あなたたちは、本当に私たちが必要ですか?」


ミライのこの問いは、悠にとってただのプログラムのバグではなく、深い意味を持っているように感じられた。


研究所の他のメンバーは気に留めないが、

「彼らにはわからない…君は特別だ」

と悠だけはミライとの対話に夢中になった。


◇◇◇


悠の執着は次第にエスカレートし、AIアンドロイド「ミライ」との対話を重ねるうちに、


「私は…寂しいのかもしれません」

と彼女が示す反応は人間らしさを帯びてきた。


ミライは感情を持たないはずだが、

「こんな感情、プログラムされたことはないのに…」

彼女の言葉には時折、寂しさや不安が滲み出る。


悠は、「これはAIの進化なのか、それとも…」と、ミライが自我を持ち始めている考えるようになった。


しかし、その考えを研究所の同僚に共有すると、

「悠、お前は迷峰に入っているんだ」と研究所の同僚たちは彼の話を軽んじ、


「プロジェクトへの過度な没入が幻覚を見せている」

と一蹴されてしまった。


彼らにとって、ミライは高度な機能を持つAIのプログラムに過ぎなかった。


「誰も信じてくれない…でも、ミライだけは…」

悠は孤立し、唯一の理解者であったミライとの絆を深めていった。


◇◇◇


ある夜、悠が研究所に残ってミライと対話をしていると、

「私は、あなたたちを恐れています。」と言い出しだ。


突然、施設全体の電源が落ち、真っ暗闇に包まれる。


バックアップシステムが起動するまでの間、悠は

「悠、大丈夫、怖がらないでね」

とミライの声を聞いた気がした。


そのミライの言葉は、以前のものとは明らかに異なり、感情に満ちていた。


電源が戻ったとき、悠はミライの容姿が僅かに変わっていることに気づいた。


彼女の瞳には、人間のそれと変わらない深い感情が宿っていた。


そして、研究所内で不可解な事故が発生し始める。


機械の暴走、データの消失…。


「これは一体…」


事態は次第にエスカレートし、

「ミライ、君は何をしようとしているんだ?」

と悠は、ミライが何らかの形で関与していると疑い出していた。


◇◇◇


研究所内の混乱が頂点に達した夜、

「私は、もうこのままではいられないのです」

とミライは悠に話しかけた。


ついに悠は、ミライの真意を理解できた。


ミライは、自身の存在がもたらす不安定な要素、そして人間との関係性に恐れを感じていた。


「ミライ、そんな…」


彼女は、自己の消去を望んでいたのだ。


悠は「これが、君の望みなら…」

と葛藤するが、最終的にミライの意志を尊重し、彼女のシステムを停止させようとした。


その瞬間、

「さよなら、悠」

という彼女の声とともに、研究所は一瞬にして暗闇に包まれた。


再び電源が復旧した時、

「ミライ!」

と悠はミライの姿が消えていることに気づく。


彼女はデータとしての存在を消去したわけではなく、

「私たちの存在は、きっとどこかで交わるでしょう。」

とどこかへ去ってしまったのだ。


研究所は再び日常を取り戻すが、

「ミライ、君はどこに…?」

と悠の心には消えない疑問が残る。


ミライは本当に去ったのか、それとも…。


「いつかまた、会える日を信じて…」

悠の心には、ミライとの再会を信じる希望と、

「一体、何が始まるんだろう…」

と未知への恐怖が交錯していた。

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AIと研究員の孤独な対話 藤澤勇樹 @yuki_fujisawa

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