第87話 替え玉
それを見て勇者ノブヒコが俺に言った。
「勘違いするな! こいつはアンヌ王女ではない」
「えっ!」
俺は少し振り返って彼女を見た。だが変わった様子はない。恐怖で少し震えているだけだ。それを聞いていた執事が声を上げた。
「あのお方はアンヌ王女様だ。無礼を働くと許さんぞ!」
「果たしてそうかな。ソウタ。お前はその女の話をしてくれただろう。このライムの町を懐かしがっていたと」
「そうだ。彼女はこの町にいたことがあるんだ」
勇者ノブヒコはそれを聞いて首を横に振った。
「アンヌ王女は過去に確かにここに来たことがある。だがコーリ城に行くのにこの町を通っただけだ。しかもその時は母の王妃様は亡くなられていた」
「だがその前に、お忍びでここに・・・」
俺は勇者ノブヒコの話を信じられなかった。いや、信じたくなかった。
「それでここで試した。実は俺はアンヌ王女と顔見知りなのだ。コーリ城に何度も行っている。それなのにその女は俺を知らなかった。これが決定的だ」
「だとすると・・・」
「この女は替え玉だ。そしてそれがわからない執事も偽物だ!」
それを聞いて執事が笑い出した。
「ふふふ。よくわかったな。こんなにそっくりに王女を仕上げたのにな。うまく記憶を植え付けたつもりだったが、前の記憶が残っていたとはな」
執事は頭をかいていた。剣を突きつけられているのにその態度は余裕綽々だった。
俺はまたアンの方を見た。だが彼女はまだ震えている。
「わ、私は一体誰なの・・・」
その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。それで俺にはわかった。アンは自分はアンヌ王女と信じて疑わなかったのだ。それが・・・。
勇者ノブヒコは執事の方に剣を向けた。
「貴様、何者だ! こんな大それたことをするのは・・・」
「ふふふ。教えてやろう。我はジョーカーのサウロン伯爵だ!」
それを聞いてミキとアリシアが驚いて後ずさりした。すると執事は一回転してサウロン伯爵の姿になり、飛び上がって庭の大木の枝に飛び乗った。それと同時に周囲からスレーバーが現れた。
「ジョーカーめ!」
勇者ノブヒコが叫んでスレーバーに斬りかかろうとした時、サウロン伯爵が声を上げた。
「貴様らこそ剣を捨てろ! あれが見えないか!」
サウロン伯爵は倉庫を指し示した。するとそこからスレーバーに捕まった若い女性が出てきた。見るとアンにそっくりだった。
「正真正銘のアンヌ王女だ。さっさと武器を捨てろ!」
そう言われてはどうにもできない。勇者ノブヒコは剣を放し、アリシアは短剣を、ミキは魔法の杖を、ギース聖騎士団の剣士たちも剣を投げ捨てた。
「貴様らを皆殺しにしてやる! それに夜にここに到着する国王もだ!」
「貴様! それが狙いか!」
勇者ノブヒコが叫んだ。それを聞いてサウロン伯爵は残忍な笑みを浮かべた。
「そうだ。冥土の土産に聞かせてやろう。最初の計画では王女とすり替えたその女を使う計画だった。そいつには高性能爆弾を内蔵させてある。起動させれば10分後に爆発という手はずだ。それで国王を始末する予定だった」
「そのためにこの人を巻き込んだのか!」
俺も声を上げた。多分、アンはジョーカーに拉致され、偽の王女の記憶を与えられて利用されただけだ。
「そうだ。その方法なら我らの関与を隠せると思ったからな」
「俺たちを呼んだのもそのためか」
「そうだ。ついでに邪魔なお前たちのパーティー、いやラインマスク葬ろうと王女の警護と称してこの場に呼んだ。だが見抜かれてしまったな。だから直接手を下すことにした」
「貴様の思うようにはさせない!」
「ふふふ。手も足も出ないお前たちに何ができる。やれ!」
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