第30話 ゴブリン

 町に物資を運ぶホバートラックはゴブリンの集団に襲われていた。ゴブリンは全身緑色で耳のとんがった邪悪な顔をしている人型の魔獣である。ボロボロの腰布をまとい、こん棒などの武器をもっている。その力は人間を凌駕する・・・と言われているようだ。

 だから襲われれば普通の人間では太刀打ちできない。だが剣士や魔法使いなど特殊なスキルを持った者だけは戦って倒すことができるそうだ。


 俺が到着したときには、ホバートラックは横倒しにされていた。運転手は逃げ出したようだが、ギース聖騎士団の剣士たちが倒れていた。彼らはゴブリンに立ち向かってやられたようだ。王様直属の剣士たちでもゴブリンの集団にはかなわない。

 だがその中で勇者ノブヒコは一人で懸命に戦っていた。剣を振り回して、向かってくるゴブリンを斬りつけていく。さすがは勇者を名乗るだけはある。しかし仲間もいない状況ではゴブリンを追い払うのは難しいだろう。


「おやっさん。俺も戦います!」

「わかった。だが相手はゴブリンだ。気を付けるんだ!」


 確かにTVのラインマスクはゴブリンと戦ったことがないから少し不安だ。しかしここはヒーローとしてやるしかない。俺は頭の中でイメージを浮かべた。ゴブリンを倒している様子を・・・


「ああして・・・こうして・・・」


 そう想像するだけで、俺に埋め込まれた魔法増幅装置が俺をそのように変えてくれる。


「俺なら奴らを駆逐することができる! 行くぞ!」


 俺はそう叫んで、ホバーバイクでゴブリンの群れに突っ込んでいった。


「バーン!」


 それでゴブリンを次々に跳ね飛ばした。俺の体とホバーバイクに強い衝撃が加わるが、何とか持ちこたえている。何体かのゴブリンたちは地面に叩きつけられて倒れたままだ。一体々々はそれほど強くないのかもしれない・・・ふとそう思ったが、それは間違いだった。

 大きなダメージを受けたはずのゴブリンは何事もなかったようにまた立ち上がってきた。奴らはタフでなかなかしぶといようだ。この攻撃ではらちが開かない。


(こうなったら変身して倒す!)


 無敵なラインマスクのパワーならゴブリンは相当なダメージを受ける・・・俺の頭の中ではそういう設定になっている。俺はホバーバイクを降りて颯爽と変身ポーズを取った。


「ラインマスク…」


 だがそこにゴブリンがこん棒で襲ってくる。変身をポーズを途中でやめて、俺はとっさに横に転がって避けた。すぐに立ち上がって変身・・・と思うが、その後もゴブリンがしつこく攻撃してくる。


(これでは変身できない!)


 変身する間は攻撃を待っているのがマナーというものだ。相手がゴブリンだからわからないのか・・・。だがTVのラインマスクもこのように変身を妨害されている場面はあった。確かに敵にとって変身前の方が倒しやすい・・・それは子供にもわかる。しかしそこは大人の事情で・・・などと今はそう言っておられない。こんな時はあの手だ。

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