第28話 捕縛

 俺はおやっさんと町を出て、ホバーバイクで森の中を走った。そこは鬱蒼とした木々に覆われてうす暗く、そこで出会う者もなくて不気味に静まり返っていた。だが道は幅が広くて踏み固められており、きちんと整備されてはいる。ホバーバイクのツーリングにはおあつらえ向きと思えるほどだ。

 しばらく走ると、急に前方に数人の人影が見えた。軍服のようなものを着て腰に剣を差している。剣士の集まりのようだ。彼らは両手を広げて止まれと言っていた。それを見て俺とおやっさんはあわててホバーバイクを停めた。するとその人たちは俺たちを取り囲んだ。


「一体、何ですか?」


 おやっさんが聞いた。するとその中の隊長らしい男が俺たちに言った。


「我々はギース聖騎士団だ」


 後から知ったが、ギース聖騎士団は国王直属の剣士隊だそうだ。その権限は大きく、時には民衆の取り締まりをすることもある。とにかく皆から恐れられている連中だ。確かにその態度と物腰は横柄だ。


「この道でホバートラックがゴブリンに襲われているのは知っているな?」

「はい。それは・・・」

「それなのにここを平気で通るとは怪しい。お前たちはゴブリンの仲間だな。それ!」


 すると四方から俺たちを捕まえてホバーバイクから引きずり下ろした。


「そんなご無体な。我々はライムの町の者です」

「嘘をつけ。白状させてやる!」


 その隊長らしい剣士は聞く耳を持たない。こうなったらゴブリン退治の前に実力行使だ。こんな連中、変身しなくても叩きのめすことができる。

 俺は彼らを振り払おうとしたが、おやっさんが首を横に振って(やめとけ)と合図した。この連中とやり合うと面倒なことになるのかもしれない。仕方がないから俺はおとなしくした。


「ホバートラックが通る頃だ。後で搾り上げてやる! 森の木でも縛り付けておけ!」


 その隊長はなかなかひどいことをしようとする。


「お許しください! お願いですから・・・」


 おやっさんは必死に懇願するが、この連中が聞くわけはない。寄ってたかって俺とおやっさんは無理やり木に縛り付けてしまった。


「こうしたら身動きも出来まい。さあ、行くぞ!」


 それだけ言って騎士団は行ってしまった。彼らはゴブリンを退治するため、ホバートラックを警護しに行ったのだろう。俺とおやっさんは寂しい森の中に残された。ここにはいろんな魔物や魔獣がいるらしい。こんな状況で襲われたら命はない・・・おやっさんは泣きそうなほど悲しそうな顔をしていた。

 だが俺にはなんてことはない。それよりこの事態をどうしようかと考えていた。ヒーローらしくあるために・・・。


(俺ならこんな縄くらい・・・)


 俺が体の力を入れればこんな縄くらい引きちぎれるのだが、それではつまらない。こんな時はガラス片とか、隠し持った小さなナイフとかで縄を苦労して切って脱出するのが常套手段だ。

 俺が何かそれらしいものがないかと見渡していると、遠くから誰かががやってくるのが見えた。

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