第26話 空中戦

 爆音を響かせてスタースクリームが走ってきた。このマシーンはまるで意思があるかのように自走できるのである。この異世界では便利だ。俺に埋め込まれた魔法増幅装置でTVのラインマスクの設定どおりのことができてしまう。

 とにかくここは見せ場だ、格好よく決めなければならない。


「トォーッ!」


 俺は飛び上がってスタースクリームにまたがった。そして猛スピードで走り出した。後方のマフラーからは真紅の炎が噴き出している。こうなるとスタースクリームは迫力がある。

 だが多分、コウモリ怪人には逃げるように見えているのだろう。「逃がすものか!」と追いかけて来るに違いない。それが狙いだ。

 すると案の定、奴は追いかけてきた。俺はサイドミラーで奴の動きを把握してタイミングを計った。そして急ブレーキをかけてハンドルを切った。スタースクリームは滑るように急転回する。そこでまたアクセルを開いて奴の方に向かって走っていった。スピードが乗ったところで俺はスタースクリームをぐっと引き上げて大きくジャンプさせた。


「ブォォォーンッ!」


 それでスタースクリームは空を飛ぶことができる。追いかけてくるコウモリ怪人にどんどん近づいて行った。

 するとコウモリ怪人は慌てたようだ。急にホバーバイクが目の前に迫ってきたのだから・・・。奴はすぐに向きを変えようとした。


「逃がすものか!」


 俺はスタースクリームから離れてコウモリ怪人の方にジャンプした。そして奴とすれ違いざまに、


「ラインチョップ!」


 を放った。それは奴の右の翼を切り裂いた。


「グワーッ」


 コウモリ怪人は叫び声とともに地上に落下していく。ここからがクライマックスだ。俺は空中で回転して態勢を整えた。そしてコウモリ怪人に空中で再び接近した。


「ラインキック!」


 それは落下していくコウモリ怪人にヒットして、奴は勢いよく地面に激突した。俺は反転して地上に緩やかに片膝をついて着地した。鮮やかな空中戦だ。一瞬のうちに勝負は決まった。


「ドカーン!」


 俺の背後で爆発が起こった。砂煙が巻き上がる。グッドタイミングだ。


「決まった!」


 俺は言い知れない快感に浸りながら立ち上がると、振り返った。火炎が立ち上りめらめらと燃えている。それに照らされている俺はかっこよく映っているに違いない。


「ソウタ~!」


 ミキの呼ぶ声が背後の洋館の方から聞こえてきた。ミキが右手を振りながら駆けてくる。俺は変身を解いて振り返った。


「みんな、元に戻ったわよ!」


 ミキは息遣いが荒いままに俺にそう言った。おれはヒーローらしくゆっくりとおおきくうなずいた。洋館の方を見ると、今まで操られていた人たちが次々に出てきている。その中にはジロウもいた。彼らはもう青い顔ではない。コウモリ怪人を倒したから元に戻ったのだ。いずれもが悪い夢から覚めたような顔をしている。

 それを誇らしげな顔で見守る俺の頭の中には、TVの主題歌とともにいつも声であのナレーションが流れていた。俺はそれで一人悦に入っていた。


『ラインマスクの活躍でコウモリ怪人を倒し、操られている人たちを解放した。しかしラインマスクの戦いは始まったばかりだ。さあ、行け! ラインマスク! 戦え! ラインマスク!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る