第6話 最初の名乗り
俺はカワミさんの悲鳴が聞こえる方に向かった。すると小高い丘に出て、その見下ろす平原に多くの人影が見えた。
「ここか!」
俺はラインマスクのずば抜けた視力でその現場をじっと見てみた。スレーバーと呼ぶ戦闘員が大勢集まり、その真ん中でカワミさんが怪人に首をつかまれていた。かなり痛めつけられているようで体がボロボロになっていた。
「お前は誰に頼まれた!」
「いや、私の意志だ! お前たちが許せないだけだ!」
カワミさんの苦しげな声が聞こえてきた。
「ならば死ね! ジョーカーに逆らうものは死が待っている!」
怪人は右手の鋭い爪を突き刺そうとしていた。そこで俺は叫んだ。
「待て!」
その声は大きく響いて辺りにこだました。スレーバーや怪人は驚き、その声がどこから来たかと周囲を見渡していた。
「俺はここだ!」
俺はスタースクリームで丘を駆け下りていった。爆音が鳴り響き、平原にいたスレーバーを次々に吹っ飛ばして進んでいく。
「貴様! 何者だ!」
怪人はカワミさんを放り出して叫んだ。俺はスタースクリームからそのまま飛び上がって大きな岩の上に着地した。そしてあの決めポーズをとった。
「天が知る。地が知る。人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」
そう名乗りを上げて俺はジーンときた。これほどの快感があっただろうかと思うほどだ。しかし怪人はただきょとんとしている。しかも、
「知らんな! お前は何者なのだ?」
などと無粋なことを言う。ここはラインマスクの登場に恐れおののかねばならないのにだ。しかしそんなことを気にしてはいられない。こいつらを倒してカワミさんを助けねばならないのだ。
「悪に染まった者ども! 正義の力を受けて見よ!」
俺は岩から飛び降りた。
「何を小癪な! 叩きのめしてやる!」
怪人が大声を上げた。近くに来るとよくわかったが、8つの複眼の目をして両腕と両下肢以外に背中に左右2本ずつの飾りのような腕が生えていた。クモをモチーフとしているのだろう。クモ怪人と言ったところか・・・。だがこいつは最後だ。先にスレーバーとかいう戦闘員を倒して俺の力を見せつけなければならない。
「やれ!」
クモ怪人の命令でスレーバーたちが俺に向かってきた。俺は前世ではただのオタクで喧嘩など大人になってしたことがない。もちろんスポーツもしていない。ただの運動音痴だ。だが頭の中にはラインマスクの華麗な戦いが詰まっている。これでなんとかなる・・・。
「バーン!」「ガーン!」
確かに何とかなった。まるで自分の体ではないくらい動けるのだ。この世の俺であるヤスイ・ソウタの運動神経がいいのか、魔法増幅の力でそうなのかはわからないが・・・。とにかくラインマスクそのままの動きをトレースできている。スレーバーたちは次々に倒されていった。こんな雑魚どもにやられるラインマスクではないのだ。
「おのれ!」
クモ怪人が向かってきた。両手の爪で引っ掻いてくる。やはり怪人は動きが違う。俺の動きについてきている。だがこちらの方が一枚上だ。パンチを体に叩きこんでやった。
「グオッ!」
クモ怪人が腹を押さえて後ろに下がった。そこをすかさず回し蹴りを食らわせた。
「グオッー」
クモ怪人は気味の悪い声を吐いて倒れた。これならやれそうだ。さらに攻撃を加えて必殺技を・・・と思っているとカワミさんがそばに来て俺の腕を引っ張った。
「今だ! 逃げるんだ!」
「に、逃げる?」
俺はカワミさんに聞き直した。ここまで来て逃げるというのか。せっかくラインマスクに変身しているのに・・・。
「いいから逃げるんだ! 相手はジョーカーの怪人なんだぞ!」
「しかし・・・」
「さあ、ぐずぐずするな!」
俺は「ラインマスクは敵に後ろを見せない!」と言いたかったが、カワミさんは強引だ。俺をスタースクリームに乗せ、彼は後席に収まった。
「さあ、行け! 森の中を突っ走れ!」
俺は言われるがままにスタースクリームを走らせた。後ろでクモ怪人が起き上がり、悔しそうに地団太踏んでいる。
(悔しいのは俺の方だ。せっかく必殺技を決めてやろうと思ったのに・・・)
俺は後ろ髪引かれる思いだった。
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