第5話 変身!
悪の組織(?)のジョーカーの基地から俺はホバーバイクに乗って脱出した。そこは見たことのない世界だった。空に太陽が並んで2つあるのだ。それに辺りに漂う空気感が全く違う。俺は確信した。
(ここは俺にいた世界じゃない。異世界だ。俺は転生してここにいるんだ!)
凸凹した山道を登り平原に出た。そこは見渡す限り美しい草花で覆いつくされ、日の光に照らされてそのしずくが輝いている。もちろんホバーバイクだから草花を踏み潰すことがない。巻き起こす風で揺れているだけだ。あまりのすばらしさに俺はふとホバーバイクを停めた。
(あのカワミさんという紳士。すぐに追ってくると言ったがまだ来ないのか・・・)
振り返って待ってみたが何かが近づいてくる様子もない。もしかして・・・俺は嫌な予感がした。
(あの連中にやられてしまったのか・・・)
いや、そんなことはないと否定しようとしたが、どうにも気になって仕方がなかった。
「助けに行かねば!」
俺はそう口走っていた。ヒーローならそうするのが当然だ・・・中二病の俺はまたそう思ってしまった。前世で殺されたときのように・・・。それでホバーバイクを返した。だが俺に戦えるのだろうか・・・。
(そうだ。俺は改造されたんだ。魔法増幅装置がついている。これを使えば・・・)
しかしあの醜悪なバッタ怪人にはなりたくない。俺は心に念じた。多分、俺が強く想像することで何にでもなれるのだ。だとしたら・・・。俺はおもむろに変身ポーズをとった。これではっきりとあの姿をイメージできる。
「ラインマスク! 変身!」
すると魔法増幅装置が腹の上に浮かび上がった。それがラインマスクのラインベルトに変わった。うまくいっている。
「トォーッ!」
俺は飛び上がった。頭でイメージしているためか、とんでもない高さまで飛んでいる。そしてその間に俺の体は変化を続けている。ラインマスクに・・・。
一回転してホバーバイクに飛び降りた姿はラインマスクそのものだった。
「やった! 成功した!」
俺は飛び上がらんばかり喜んだ。こんな形で幼いころからの夢をかなえられるとは・・・。
「行くぞ!」
俺はホバーバイクを走らせた。だがこいつはラインマスクにそぐわない。スマートすぎていかつさが足りないのだ。
(ラインマスクのバイクと言えば・・・)
俺は頭の中でイメージした。すると魔法増幅装置が働いたのか、ホバーバイクも変化を始めた。派手なフロントカウルに、センターカウルのきらめくラインが特徴的なボディ。左右3本ずつの太いマフラー。そして太いタイヤが前後に現れ、強力なエンジンから轟音を響かせている。もちろん元はホバーバイクだから地面に接地することなく少し浮いたままで、そのタイヤは空気を激しく掻き出して軽快に走っている。
「これだ! これだよ! ラインマスクのマシーンと言ったらスタースクリームだよ!」
俺は有頂天で浮かれていた。だがそんな俺に「うううっ・・・」と苦し気な声が聞こえてきた。
(あれはカワミさんの声・・・)
カワミさんは奴らにやられてるに違いない。今の俺はかなり遠方の声ですら聞くことができる。ラインマスクの聴力は常人の数百倍だ。こんなところにも俺の頭の中に刻み込まれた設定が生かされている。
「今、いくぞ!」
俺は叫びながらスタースクリームを猛スピードで走らせた。
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