異世界変身ヒーロー  転生したヒーローオタクがそのチートな想像力で無双しています 。

広之新

第1節 異世界転移した俺

第1話 ヒーローオタクの末路

「貴様! 何者だ!」

「天が知る。地が知る、人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」


 その声が荒野に響き渡る。悪の怪人の前にラインマスクが姿を現したのだ。彼は華麗にポーズを決め、寄せ来る敵をバッタバッタと倒していく。


 その場面を見るたびに俺はワクワクする。「正義の仮面! ラインマスク!」は何度見ても飽きない。俺のバイブル、いや命そのものだ!


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は山田学。独身の45歳。うだつの上がらないサラリーマンで、年ばっかり食ってしまった。だが心は子供のままだ。オタクと言われようが、俺は正義の味方「ラインマスク」に今ものめりこんでいる。40年以上前にもなろうとしているのに・・・。

 悪の組織の怪人が人々に危害を与える。そこに主人公の相川良はバイクで颯爽と駆け付けて、ラインマスクに変身する。そして力の限り戦って怪人を倒すのである・・・それが頭に浮かぶたびに俺の血が湧き、胸が高鳴る。


 その日、俺は普段は通らない公園の横の道を通って家路についていた。残業ですっかり遅くなってしまったからだ。こんな若くない中年の平社員をここまで働かせるか・・・俺はぶつぶつ呟いていた。だが早く家に帰ったところで独身一人暮らしの俺を誰も迎えてはくれない。


(家に帰って飯でも食いながらラインマスクのDVDでも見るか・・・)


 そう思いながら歩いていると、遠くから声が聞こえる。耳を澄ますと、


「きゃあ! 助けて! 誰か来て!」


 と助けを呼ぶ若い女性の声の様だ。普段の俺なら関わり合いになるのを避けてそのまま通り過ぎるだろう。だがその日は違った。


(助けに行かねば・・・)


 俺はそう思い立った。そんな柄でもないのに・・・。もしかしたらラインマスクのことを考えていて、自分もそうなれると思いこんでいたのかもしれない。

 俺は女性の声のする方に走った。すると確かに若い女性が追われていた。半グレの集団に・・・。この手の奴らはかなり厄介だ。何をしでかすかわからない。社会の常識など通用しない奴らだ。

 その若い女性は私が助けに来たと思ってくれたのだろう。ほっとした顔をして私の背後に隠れた。


「助けてください!」

「もう大丈夫だ!」


 ここまでは俺のシナリオ通りだ。この分では追ってくる半グレ集団を叩きのめすこともできるだろう・・・などと訳の分からない妄想に取り付かれていた。若い女性に頼りにされてそんな気になってしまったのだ。


「おっさん! どけや!」

「その女をこっちに渡せや! 遊ぼうと言ってやっているのにシカとしやがって!」


 俺は何も言わず奴らを睨みつけてやった。


「おっさん! メンチ切っとるんか!」

「やる気か!」


 半グレの奴らが威嚇してくる。俺は身構えた。この構えからパンチを放てる。奴がもう少し近づいてきたら・・・。だがその前に俺は胸倉をつかまれた。奴らのほうが背が高いし、腕のリーチも長いのだ。


「おっさん! いてかましたろか!」


 それでも俺はパンチを打てない。いや、打てなかったのだ。よく考えてみたら喧嘩なんか、小学校の低学年以来やっていない。それ以降は口げんかで済ませてきた。俺の体はパンチを忘れてしまっていたのだ。


「こらこら! おっさん!」


 奴は胸倉をつかんで俺を振り回す。それを周りの奴らがニヤニヤ笑って見ていた。


(こうなったらヤケクソだ! 俺だってやるときはやるんだ!)


 俺は持っているカバンを振り回した。当たろうが当たるまいか、そんなことは関係ない。必死の攻撃に奴らもビビるだろうと・・・。それがうまい具合に胸ぐらをつかんでいた奴の顔にヒットした。奴は痛そうに顔を押さえた。その時、俺は勝ちを意識した。その一瞬だけ・・・。


「おっさん! やりやがったな! 許さねえ!」


 そいつはポケットからバタフライナイフを出してそれを開いた。金属の刃が闇にきらめいた。逃げようとしても、俺はビビッて動くこともできない。奴の方はかなり頭に血が上っているようだ。わめきながらすぐにそのナイフを俺の胸に突き刺した。


「ああっ・・・」


 俺は悲鳴にもならぬ声を出した。痛いというより驚いたのだ。胸から血がどくどく流れて体の力がどんどん抜けていく。


「きゃあ!」


 まず若い女性が悲鳴を上げて逃げた。薄情な女だ。俺が助けようとしてやったのに・・・。


「まずいぜ! 逃げろ!」


 半グレ集団も逃げて行った。意気地のいない奴らだ・・・。


(俺は奴らを追い払ったのだ)


 俺は何かわからない爽快感に包まれながらその場に倒れた。意識がどんどん遠のいていく。ようやくそれが死だと悟ったのだ。

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