第30話 炸裂する金と青褪める桜
我が身を省みず死に物狂いで襲いかかってくる
初動が遅く、大味な噛みつきを連続で繰り出す
振り向くと、ひょろりと不気味な猿の合成獣も鰐淵の剛腕と盾を前にして一切の攻め手を封じられている、といった状況だった。
読み通りの展開にも関わらず黒澤は舌打ちする。
それすらもこの通路を操る敵の……掌の上だった……!!
「鰐……!! さっさとそいつを片付けろ!! お嬢を追う……!!」
「へい……!!」
その時、業を煮やした猿の
それを見た二人の本能が何かを感じ取った。
あれは金○か……!?
金○攻撃とか嘘やろ……?
本人が無事で済む訳はねえ……!!
それやったらこの攻撃の持つ意味は一つや……
「鰐……!! 自爆だ!!」
「兄貴……!! 自爆や!!」
二人は互いの方へと全速力で走りだす。
猿の
袋に入った二つのタマが割れて、中に詰まった一液と二液が混ざり合う。
その混合物は爆発的な反応を繰り返しながら、オレンジ色の炎と黒黒と渦巻く爆煙で通路を埋め尽くしていく。
「いぎぃいいいい!?」
それを見た黒澤は、くるりと踵を返し、もと来た道を引き返す。
「あ、兄貴!?」
「走れぇえええええええ……!! お前の盾でも無理だァァああああ……!!」
「わぁぁああああああああああ……!?」
目玉を剥き出しにし、唇をへの字に曲げて走る二人に火の手が迫る。
「あっちいぃいいいい……!?」
とうとう炎が鰐淵の尻に燃え移ったその時。
ガコン……
何かが組変わる音がした。
するとすぐ背後まで迫っていた炎の気配が消える。
ガコン……ガコン……とな音を立てながら、通路は何度も形を変えてた。
明らかに何らかの異常が起きている。
二人は同時に現状を理解し、顔を見合わせて言った。
「お嬢のウイルス!!」
⚔
「じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃまぁぁああ〜!! 邪魔っ……!!」
鞘に収めた刀を振り回し、鬼の形相を浮かべたオカマが奇声を上げながら長い通路の一本道を突進していく。
通路の両脇に設けられた檻の中には様々な合成獣が収容されていた。
それら全ての扉が開け放たれ、合成獣が埋め尽くす死の通路を、珍獣と化したオカマが蹂躙する。
ガニ股で走る金ちゃんは、褌などとうに丸見えになっており、その様はまるで金ちゃんの金ちゃんが、どどん……!! と腕組みするかのようだった。
筋骨隆々な太腿と細く引き締まった脛のコントラストを台無しにするスネ毛。
全開の鼻腔から覗く鼻毛と、汗でも崩れることのない厚化粧。
血走った両の
その目が見据えるのは、何処かにいる仲間の無事と、この通路の奥から漂う悪辣非道な気配の主のみ。
「おんどりゃぁぁっぁああ!? 喰われたくなきゃ道開けなさいよぉおおおお……!!」
荒ぶる
逃げ遅れた合成獣は、問答無用でオカマの餌食となって叩きのめされた。
「さくらぁぁぁあああああ……!! くろさわぁああああああ……!! ハゲぇええええええ……!! 気張りなさいよぉおおおおお……!!」
⚔
物理的に、助けは絶対間に合わない……
それにおそらく……
あたしが捕まっても殺されることはない……!
そんな判断のもと下したさくらの決断は僥倖だったと言える。
ウイルスは見事に通路の制御を撹乱し、偶然にも二人を爆炎から救う結果を生んだ。
しかしさくらは拘束された手術台の上で、自分の立てた予想の甘さに唇を噛んで青褪めていた。
部屋の壁一面に並んだガラスの瓶の中には、大小様々な脳味噌が浮かんでいる。
さくらの頭にその単語が過った。
それはネットの海でまことしやかに囁かれる凄腕ハッカーのハンドルネームだった。
目だけ動かして見つめたトレーの上には、手術用のメスや鋏に鉗子、そして電動丸鋸が置かれている。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ……
震えるさくらの顔にスッと影が重なった。
手術室の眩しいライトの中に、異様に大きな頭をしたシルエットが浮かび上がる。
さくらの顔を覗き込みながら、不果老はニタァ……と邪悪な笑みを浮かべていた。
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