第8話 カマキリと呼ばれた男
金ちゃんは直ぐ様臨戦態勢に入った。
半身に構えて右腰の辺りから斜に刀を構え組長の攻撃に備える。
組長は依然として足を組んで座ったまま涼しい顔をしていたが、その背中からは
アームの先端には鋭い鎌がキリキリと音を立てて蠢き、その姿はさながらカマキリのように見える。
油断した……
金ちゃんの頬に汗が滴る。
油断していたとは言え何の反応も出来ぬまま眼鏡男を刺されたことに後悔が滲む。
それと同時に、その事実は視線の先で平然と座る男の技量の高さを物語っていた。
攻撃の素振りは無かった……いったいどうやって……?
「オヤジ……」
その時背後で眼鏡が言った。
「こいつを医者に運ぶ許可をください……医者に見せたら俺はすぐに戻ってきます……」
肩の深手から血を流しながら息も絶え絶え男は地に膝を付いて頭を下げる。
「どうか……」
「お前勘違いしてるネ」
そう言って組長が立ち上がる。
「アンタ達!! 行きなさい!! こんな男に義理を通す必要ないわ!!」
僅かな殺気を感じ取った金ちゃんは集中力を研ぎ澄まし追撃を許すまいと大きく息を吐き出した。
「ワタシ裏切って逃げ出そうとする奴……もう用済みヨ……!!」
六本の鎌のうち三本が金ちゃんの両脇をすり抜けスキンヘッドと眼鏡を襲う。
しかし金ちゃんは左足でアームの一本を踏みつけ、一太刀のうちに残りの二本を薙ぎ払った。
超硬度炭素繊維のアームは破壊こそされなかったが、大きく軌道が逸れて見当違いな場所に突き刺さる。
「甘いヨ……」
ニタァ……と組長が嗤った。
何かが組長のアームから飛び出し、ギラリと鋭い影が三つ金ちゃんの視界を横切る。
「しまった……!!」
金ちゃんは咄嗟に振り向き、目を見開く。
そこには信じられない光景が広がっていた。
背中に鎌を突き立てたスキンヘッドが兄貴分を庇っている。
刺さった鎌の切っ先はワイヤーで組長のアームに繋がっていた。
「馬鹿か……!! 何してる……!?」
眼鏡が大声で叫んだ。
「ワシ……兄貴に恩返ししたかったんですわ……こんな恩返しですんません……でも……兄貴に死なれたらワシ
眼鏡の頬に思わず涙が伝う。
眼鏡が口を開いた瞬間、背中の刃が勢いよく引き抜かれ、スキンヘッドが血を吐き倒れた。
「がフッ……‼‼‼」
ワイヤーが巻き取られ切っ先が組長の下に戻る。
組長は苛ついた声で吐き捨てた。
「馬鹿のせいで仕掛けバレたヨ……つくづく使えないネ。
「カマキリぃぃい……!! 貴様ぁあああああああ……!!」
眼鏡がスキンヘッドを抱きかかえて鬼の形相で叫んだ。
「五月蠅いヨ。役立たずは黙って死ぬイイ……つッ!?」
カマキリと呼ばれた男は咄嗟に六本のアームで金ちゃんの斬撃を受け止めた。
内部機関が唸りを上げ、関節部分のベアリングがギュルギュルと悲鳴を上げる。
重いネ……こいつも
青筋を立て、目を見開き、涙を目に溜めながら、金ちゃんは刀を振り切った。
「ぬぅぅぅうんっ……‼‼‼‼‼」
吹き飛ばされたカマキリは壁に激突する寸前で四本のアームを突き立て壁に張り付いた。
突き刺したアームで壁を歩きながら、カマキリは金ちゃんの側面に回り込む。
金ちゃんは視線だけでその動きを追いながら静かに言った。
「あんた……子分を何だと思ってるの?」
「子は親の為に動くものネ。役に立た無い、それ子違うヨ」
「子を守るのが親の務めでしょうが……!!」
金ちゃんは目を見開き凄まじい声で吠えた。
その声は部屋の窓をビリビリと震わせ、さくらと眼鏡の背に思わず鳥肌が駆け上がる。
「オカマに言われても説得力皆無ネ。コドモ産めば話聞いてやるヨ」
そう言ってカマキリは大きく口を開くと長い舌をだらりと伸ばした。
ガコンと顎の外れる音がする。
すると口から内部機関の蒸気が吹き出し、さらなる
目を複眼状のゴーグルが覆い、肘から先が二つに裂けて両腕も鋭い
こうしてカマキリは合計八つの鎌を展開すると、首を傾げて鎌の一本をべろりと舐めた。
「貴様は最早人に非ず……人の血の通わぬ
「人間の魂の重さ……
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