09 軍人
アイシャは鞘から剣を抜く練習を、ヤクタは戦利品の確認をしているうちに、先ほどから接近してきていた人物がようやく現れた。
3人の、甲冑を着た立派な軍人だ。それぞれ軍馬にまたがり、悠然と街道を闊歩してくる。
最初に反応したのは、ギョッとした様子のヤクタ。盗賊に軍隊は天敵のようなものだ。が、今は、ご飯中に兄が近づいてきた男の子の
3人の軍人はアイシャたちに気づくと、何事か相談しあった後、あからさまに警戒しながら距離を詰めてきた。
爽やかな好青年と、ごついおじさんと、ごつい若者の3人組で、話しかけてきたのは先頭の好青年。
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「…やぁ、ちょっと、話を聞かせてもらえるかな。」
「ハイ! わたしはヤーンスの町から領都へ行く避難民の迷子で、アイシャといいます。こちらは、道案内のヤクタさんです。」
「ヤクタっす。」
「そうか。領都へはこの道をまっすぐ歩けば1日半くらいだから、もう少しがんばって。それで、この転がってるオーク族は、いったい?」
「ハイ! ありがとうございます。彼らは、襲ってきたので
「さすがに、もう逃げたんじゃねぇの?」
「聞き捨てならないな。倒したのは、そちらのお姉さんが?」
「?」
「いや、この子こう見えて、武神流の達人なんでめちゃめちゃ強いんだわ。
それはそれとして、これはアタシらの獲物だからな!」
「あ、そうそう、それですよ。この剣とか重いんで、領都で売れる店まで運んでくれたら嬉しいな☆」
「オマエ……」
「君ねぇ……」
悪い人ではなさそうなので、普通に受け答えします。
軍人さんは男の人なので荷物運びを手伝ってもらうのは名案だと思ったんだけど、ヤクタにも軍人さんにも盛大に呆れられてしまいました。解せぬ。
「我々の軍はオーク族の侵略者を撃退するための行軍中でね。敵の情報は何であれ、とても貴重なんだ。ヤーンスの街を守るためでもあるから、協力として、譲ってくれないか。褒美は出るはずだから。」
「だって、ヤクタ。どうしよう?」
「うぅーん、褒美ねぇ。たとえば、コイツが持ってた毒蛇模様の護符だったら、どれだけの値がつく?」
毒蛇の護符と聞いた軍人さんたちに、さっと緊張が走ったみたいです。普通の蛇と毒蛇って見分けつくの?頭の形?こういうのはマムシ?へぇ。そういえば、ただの斥候じゃないって言ってたよね。
「この情報は非常に重要なので、報酬は大きくなるだろう。だが、嘘や曖昧な話が混ざっては罪にもなるぞ。…とは言っても、むむぅ…」
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「ねぇヤクタ、どういうことかしら?」
「アイシャがこのオーク族を退治したって信じられないってことだろうさ。」
「平たくいうと、そうなるな。」
好青年がうなずくと、後ろの若い大男が小馬鹿にしたように応じる。
「だいたい、武神流っていえば王都あたりでほそぼそ伝わる古ーい剣術で、丸太の素振り千本やってるアレだろう。
「そうなの?」
「知らなかったのかアイシャ。あー、別の武神流があるのかもな。」
「いや、武神さまそんなこと言ってた。アホのカムランが”ただの力まかせだー”っていうから
[
空気がビリビリと震え、雷鳴に似た響きがそこにいた一同の耳をつんざいた。
馬が恐慌を起こし、飛び跳ねたり走り去ろうとするのを軍人たちは必死に御する。
ヤクタは耳をふさぎつつ、目を見張って周りを見渡す。
「あれ? あの声、みなさんも聞こえる感じですか。あれ、武神さまです。武神さまはバナナとか甘いブドウを作れる偉い神様です。」
「いや、声というか、雷が耳元に落ちたようなバーンって音が……アレが武神流の武神? なんて言って…おおっしゃって?るんだ?」
「えーっとね、何か試し割りしてみろって。あの男の人とか?」
「どう! どう!」と、ようやく馬を落ち着かせた軍人たちだが、アイシャを見る目には恐れが篭もっている。
「ま、待ってくれ。彼を試し割られては困る。」
「不遜なことを申したことは謝罪する! 怒りを納めたまえ!」
「どうしよう、ヤクタお姉ちゃん。」
「お前、人頼みにも程がねェか。とりあえず、馬に乗れる身分の軍人を試し割ったら、後が面倒くさいんだわ。あのオーク族の死体7つ重ねて、へし切りに切ったら実力を示せるだろ。」
「剣が汚れるから、イヤぁ。…あ、あの折れた剣をもう一回斬ったらいいんじゃない?」
「それでもいいかな…軍人さん、どうかね?」
「あ、あぁ。そうだな、じゃあ、それで。見せていただきたい。」
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