第6話
「僕は僕のオリジナルを殺しに行きたい。オリジナルが死んでしまったら、そのクローンを奴等は増やせなかったんだ。クローンからクローンは生み出せない」
強い意志を目に宿し、ヨシノはそう言った。
トゥエニィという名を捨てたがっていた彼がオレに新しい名をくれと言ってきた時、オレは『ヨシノ、とか?』と曖昧な返事をした。それを聞いてヨシノは『ひっでえな。オッサン、だいぶ性格悪いよ』とむくれたが『ま、悪くないね。数字よりずっといい』そう言ってほほ笑んだ。
ヨシノをアジトに連れ帰った日から、オレとヨシノは共同生活をするようになったのだ。最初は自身のアイデンティティをどこに持てばいいのか分からなかったのか、物静かで、話す言葉も固いものだったが、春が過ぎ去り、蝉がうるさくなる頃には年相応の生意気さと口の悪さを獲得していた。トゥエニィという名を捨てたがり、ヨシノという名を気に入ってくれたその日は二人でアイスキャンディーを食べていた。
桜の品種の名の中にあったヨシノという三文字を気に入ってくれた真夏の午後の四畳半間で、アイスキャンディーの残骸の棒を手に持ちながら、ヨシノは言ったのだ。「オリジナルを殺しに行きたい」と。
「殺しに行きたい……か。その口ぶりだと、クローンがこれ以上増えない事を願って、という理由に聞こえるが、あっているか?」
オレはヨシノにそう確認した。
「あぁ。その通りだ」
「何があったのか、聞いてもいいか?」
「あ、あぁ、そうだな。……でも、何から話をすればいいのか……」
「……、奴等にとってのペットとはなんなんだ?」
「わ、分からない……。オレはペットとして飼われる前に逃げ出したから、奴等のペットになるという事がどういう事なのか、本当のところは分からないんだ。でも、廃棄処分だと返却されてきた人たちは見てきた」
「その人たちは?」
「ボロボロになっていたよ。体が、というより精神が」
「ふーー」
辛そうに話すヨシノの肩に手を置いて、オレは大きくため息をつく。
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