第4話

「なんだ、その小僧は」

 オレとその隣に立っている少年に一瞥をくれて隊長は一言そう言った。客入りの少ない場末のバーの奥の秘密の空間。認められた者しか入れないアジトにオレは少年を連れて来ていた。

「我々の同志に迎えるべき人材だと思ったので連れてきました。独断専行をどうかお許し下さい!」

 オレは大きな声ではっきり言い切った。

「あぁ、その小僧が普通じゃないって事は見りゃあ、分かる。そして、テメエで独断専行を自覚してんなら結構だ。ここは本部じゃねえしな。多少の事は目を瞑ってやる」

「ありがとうございます!」

 隊長の前に直立不動で立ったまま、オレは声を張り上げる。


「名は何と言う?」

 隊長は隣の少年に語りかける。落ち着いた声で。眼光に冷徹を携えて。

「名前は……、トゥエニィと呼ばれていました……」

 少年は答える。オレと並んで立ったまま、座っている隊長の前の机の角に目をやりながら。

「そうか……。トゥエニィ、キミは奴等のもとからやってきたという事でいいんだな。話に聞いた事はあるが、オレも実際に見るのは初めてだ。逃げて来たのか、それとも放逐されたのか」

 隊長はそう言った。話が早くて助かる。オレの説明など不要のようだ。

「逃げてきまし……、いえ、実際のところはどうなのか分かりません。自分の意思で出てきたのは確かですが、僕を捕まえる事なんて簡単だったに違いありませんから」

 トゥエニィがまるで動かないまま話しているのをオレは横目で伺う。その身体に動きはない、が、オレとは違って自然体だ。

「ふむ……。気を悪くするのは承知の上で確認する。キミは奴等のペットで、そして、名前から察するに、二十体目のクローン、という事でいいのだろうか」

 隊長は言い澱む事なく言った。余計な気遣いはより一層大きな傷を与えるという事だろう。

「ええ。自分が正確に何体目なのかを知る術はありませんが、そうです。僕はペットで、クローンです」


 頭の中に、風に舞う桜の花びらのイメージが浮かぶ。公園で話している中で彼は確かこう言っていた。「ソメイヨシノを並べて植えるのって残酷ですよね。同じ自分に囲まれて喜べるほど、彼らはナルシストでもないでしょうに」と。


 ソメイヨシノが受粉して種を結び、種から生えてくる樹じゃない事くらい知っている。


 ソメイヨシノもトゥエニィもクローン生物。


 哀しい色と言ったトゥエニィのそれは、少年ゆえの感性などではなかったんだ。

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