Unnaturals
ハヤシダノリカズ
第1話
まだ残る肌寒さのせいだろうか。頭皮が引き
二十数年前のあの日、激変の始まりだったあの日の人類にとって、今のこの光景は信じられないものだろう。恐怖に晒され、自らの無力を思い知らされたあの日。あの日の人類はこの光景が再び手に入るとは思ってもみなかっただろう。たとえ、この平和がかりそめのものだとしても、命の危機を覚える事無く呑気に昼間から酒を飲んでいられるそのかりそめは何ものにも代えがたい宝に他ならない。全くもって、その通りだろう。ナチュラルたちには。
さて、今日はこんなものでいいだろう。ただ目立たないように歩くというこの訓練は、オレの精神を大きく削る。辺りの酔っぱらい共を何気なく視界に入れているといったそぶりでいるが、どうしたって彼らの髪型に目が行ってしまう。ポニーテールにツインテール、団子に緩いまとめ髪、そして、みずら……。男女問わずほとんどの人間が長髪だ。中には短髪のものもいるが、それらもまた、刈られた後の育成の途中である事を見せつけているように見える。
しかし、みずらなんて髪型が流行るとは。なにも縄文時代にまで回帰する事はないだろうに。髪型への考察のせいか、訓練による疲弊のせいか、どうにも頭皮の引き攣れが気になって仕方がない。頭部を思い切り掻きむしりたい欲求をどうにか抑え、耳の前のみずら髪を左手でちょいとつまむ。掻きたい欲求はまるで収まりはしないが。
その時、オレは視界の端に違和感を覚えた。花見の騒がしさの中に異物がいる。なんだ。おかしい。オレはその異物をそれと認識し、ソイツの方向に足を向ける。いつの時代のものだろう、おそらくはもう存在していない牛乳屋の店名が背もたれに書かれたボロボロのベンチに少年が座っている。纏っている服は妙に小奇麗だが、まるで生気を感じさせないその目は虚空を眺めている。視線の方向には満開の桜があるが、おそらく彼はそれを見ていない。花見の酔っぱらいのグループから抜けて来た?いや、そうじゃない。
そこにいるのに、そこにいる事を自ら消している様なその佇まいにオレの勘は言う。
『なにか、おかしい』と。
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