あれから、僕は後輩の姿を見かけることは全くなくなった。


 おそらく転校したのだろう。

 僕が「おそらく」というのは、つまり、僕自身もなぜ後輩が突如として姿を消したのかを知らないのだ。


 もしかしたら、僕と偶然会っていないだけかもしれない。もしかしたら、大きな怪我を負って病院に入院しているのかもしれない。もしかしたら、事件やら事故やらに巻き込まれてすでに亡くなっているのかもしれない。


 そんな数ある可能性の中から、僕が後輩の転校を選んだ理由は、ただ単にそれが一番、後輩が無事で元気に暮らせる世界線だったというだけだ。特に深い理由はない。


 僕は後輩とのこの結末も、「変化」の代償だと思うことにした。

 去年のバレンタイン、僕は初めて後輩とコミュニケーションを取った。そのせいで、後輩との適切な距離が、後輩との心地よい関係が、終わりを迎えたと思った。

 そう思い込まないと、僕はやりきれなかった。何かのせいにしたかった。僕が間違っていたんだと、確信を持っていたかった。


 僕は、依然として後輩に思いを寄せ続けた。

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