スウィートビター・チョコレート

フィクサー

 心地よい関係であり続けるためには、変化というものにひどく敏感でなければならない。


 心地よい関係。例えば、恋仲の幼馴染だとか、相思相愛を気づかぬふりしている男女だとか、一途に片想いし続ける後輩と先輩だとか。

 そういう心地よい関係というものは、奇跡の具合で成り立っている。


 ひとたびどちらかが告白してしまえば、その関係はすぐに変化してしまうのだ。もしかしたら、いやもしかしなくとも、交際という関係にはいけるかもしれない。

 しかし、それは必ずしもプラスであるとは限らない。少なくとも僕は、交際することで逆に幸福度が下がるという状況を幾度となく見てきた。


 恋に落ちるのには十分すぎるほど可憐な幼馴染も、中学三年生のクリスマスに告白してきたあの女の子も、ことあるごとに僕をいじってきた優しい笑顔の先輩も。みんな「告白」という変化にはおしなべて積極的で、すぐに心地よい関係は終わりを告げた。


 付き合う前のあの高揚は、この心地よい関係は何しても変化しないはずだ、という絶対的な安心感のもとで成り立っているものであり、あくまでそれは適切な距離を保ち続けた上での幸福に過ぎないのだ。


 変化を望むことは、関係の終焉を望むことと同義であるということを、僕は身にしみて感じていた。

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