貞操観念の逆転が頻繁に起きる世界でヤンデレ包囲網が形成されていた件
みょん
俺は違和感を抱いている
最近、俺は妙な違和感を感じている。
その違和感がなんであるか分からないという気持ち悪さを抱えているものだから、とにかく日々の日常の中でそれが気になって仕方ない。
「蓮、どうしたの?」
「……何でもないよ母さん」
ほら、こんなだから母さんにさえ心配させてしまう始末だ。
随分前に父さんが病気で亡くなってしまったこともあって、母さんが一人で俺のことを育ててくれている。
幸いに母さんは給料が良い仕事をしているとは言ってるけど、それでも大変なことに変わりはないんだ――あまり心配をさせたくない。
『次のニュースです――女性の体を無理やりに触った男性が痴漢の疑いで逮捕されました』
ふと、テレビからそんなニュースが聞こえた。
最近は物騒というか……まあ世の中そのものが物騒みたいなもので、毎日のようにテレビからは事件があったことを伝えられる。
俺の住んでいる場所はそうそう事件はないけど、都会なんかでは日常茶飯事の勢いだ。
「どうして痴漢なんてするんでしょうね。すぐに警察に捕まってしまうし凄く大変なことになるのに」
「痴漢する人の気持ちは分からないな……それだけ性欲があるってことじゃない?」
俺としてはこんな風に答えるしかないわな。
それから朝食を済ませた後、すぐに準備を済ませて家を出た――俺が通う高校は歩いて三十分程度……結構長い方だが、もうずっと続けていることなのでもう慣れた。
今日は友達の誰とも待ち合わせなんかをしていないため、寂しくはないが一人で静かに学校へ向かう……そんな時だった。
「……あれは」
目の前を歩く一組のカップルを見つけた。
その男女の顔はそれぞれ見覚えがある……何を隠そう俺と同じクラスメイトであり、美男美女のカップルとしても有名だからだ。
「けっ、朝からラブラブなことで」
非リア充の俺からすれば吐き気……まで行かないけどムカつく光景だ。
もちろんムカつくからと言ってちょっかいを掛けたりはしないし、誰かと陰口を叩くような格好の悪いこともしない……だから心の中で思いっきり妬んで呪うんだよ。
「……羨ましいよなぁやっぱり」
俺もあんな子と付き合ってみたいもんだ……まあ、そうするにはまず魅力があると思われるような人間にならなくちゃな!
……なれるかどうか分かんないけど。
さて、そんな風に俺は美男美女カップルの後ろを歩いているが……少し気になった物を見つけた。
「……ガーゼ?」
美女の方――
とはいえ水瀬の太ももをジッと見つめ続けるのも変態だな……これ以上は止めとこう。
「……………」
その後は無事に学校に着き、教室に入ったら自分の席へ。
いつもと変わらない光景のはずなのに、やっぱりどこか違和感がある日常風景に首を傾げる。
「今日も伊藤と水瀬のやつ、見せ付けるように歩いてやがったぜ」
「羨ましいよなぁ……俺もイケメンに生まれたかった! そんでもってあんな美人の彼女が欲しかったぜ!」
「いやいや、まずはそうなる努力をしようぜ?」
クラスのイケメンと美人のカップルに対し、そんな言葉が囁かれるのも今に始まったことじゃない。
けど……何だろうこの違和感。
つうか今日の俺、違和感って言葉ばっかり使ってるな。
「ねえ亜美、放課後はどうするの?」
「あ~どうしよっか。あたしは別になんでも」
「なんでもってのが一番困るんだけどなぁ!」
「ちょ、ちょっと!」
近くでギャルたちがそんなやり取りをしたと思えば、その中でも特に目立つ女子が友人に押されてこちら側へ体勢を崩した。
俺の机を思いっきり動かしやがったってのに、チラッとこっちを見ただけで謝罪も何もない……ま、別に謝罪なんて要らないけど気持ち良くはないよな。
「……………」
しかし、やはり俺は違和感が気になり続けている。
喉元に出かかっているような奇妙な何かを抱えたまま、その日の時間は過ぎて行った。
▼▽
胸に抱える違和感は残り続けている。
頭の中で何かが切り替わったような……それも、日付が変わる0時00分になった途端にカチッとスイッチが入ったような気がした。
結局それが何であるか分からなかった翌日……正確には朝になるが、俺はとあるニュースに目を向けた。
『次のニュースです――男性の体を触った女性が痴漢の疑いで逮捕されました』
女性が男性に痴漢をして逮捕されたというもの……何もおかしいニュースではないのに、妙に視線を向けてしまう。
そんな俺に対し、母さんがオドオドとした様子でこう言ってきた。
「や、やっぱり気になるわよね。それはそうよね……だってあなたは男の子だもの……痴漢は嫌よね。男性に比べて、女性の性欲は凄いし……」
……うちの母さんってこんなだったっけ?
息子としてそんな失礼なことを考えてしまった……昨日の母さんは少なくとも堂々としてるっていうか、いやいや! うちの母さんはいつも堂々としてるはず……いつもってなんだ?
(というか……なんで母さんはそんなに俺を怖がっているんだ?)
母さんが俺を怖がっている……そんな気がした。
「母さん……? どうしてそんな――」
「あ……今日はババアじゃないんだ。母さんって呼んでくれるのね」
「……何を言っとる?」
「ご、ごめんなさい! 怒らないで!」
おいおい、俺が母さんをババアだなんて呼ぶわけないだろ。
女手一つで育ててくれた大事な家族をババアだって? もしもそんなことを言う奴が居たら他人だろうがぶっ飛ばしたくなるくらいだぞ。
「ババアだなんて言わないよ。母さん、今日も美味しいご飯ありがと」
「あ……あぁ!」
「な、なんで泣くの!?」
感激したように涙を流す母さん……待て待て待て。
本当に何が起こってる? 俺ってば、もしかして質の悪い夢を見ているっつうかまだ実際には寝てたりするのか!?
「……いつっ」
頬を抓ってみた……痛い。めっちゃ痛い、死ぬほどではないが痛い。
一旦自分のことは置いておいて、おかしくなってしまった母さんを慰めるように背中を擦ると、更に感動してしまったらしく涙が止まらなくなってしまい……俺はもう何が何だか分からなかった。
波乱とも言える朝食を済ませた後、学校に行くために家を出た。
「……お」
そしてまた、通学路で昨日の焼き直しのようにまた美男美女カップルを目に留めた。
なんだよ……これは恋人の居ない俺への当てつけか?
そう思って舌打ちをした直後、目を疑う出来事は起きた。
「し、真治君……お弁当作ったの……お昼に食べて――」
「はあ? お前みたいなのが作った弁当が要るかよ」
水瀬の言葉を彼氏……伊藤真治が拒絶したのである。
彼女の弁当なんざ全国の男子高校生が憧れるもの……それをあのイケメン野郎は蔑んだ目で水瀬を見ながらそう言ったのだ。
「……え?」
いやいや、これは別に悲報! ラブラブカップルの裏の顔! とかビッグニュースではなく、こんなこと絶対にあり得ない光景だからこそ俺は驚いたんだ。
(待て待て待て……伊藤は確か、あんなじゃねえだろ? 可愛くて美人の彼女が居るのはムカつくけど、あんな性格クズじゃないはずだ)
そして俺はまた、強烈な違和感をそこで抱く。
目の前のクズな伊藤と、記憶にある温厚な伊藤が代わる代わる脳裏に出てきて気持ち悪い……少し吐き気がしたほどだ。
伊藤はそそくさと行ってしまい、水瀬はその場に留まって涙を堪えている……なんでぇ?
「……………」
結局、それが気にはなっても学校に向かうことは止められない。
だが……教室に着いてすぐ、また俺は違和感を抱く。
「伊藤の奴、よくやるよなぁ。女と過ごすとか疲れねえのかね」
「いつ襲われるか分かんねえのになぁ。でもまあ、襲われたら襲われたで慰謝料ぶんどるとか?」
「ありそうだなぁ……ははっ、俺もちょっとそれ路線やろうかな?」
「でも……ちょっと女性は怖いよ」
「僕も……」
……クラスの男子が終わった発言をしている。
そして、さっきの光景に続きまた派手な女子がガタンと俺の机にぶつかってきた……それも昨日と同じ、けれど反応は違った。
「ご、ごめん……怪我とかないよね?」
「ちょっと馬鹿! アンタ何してんの!」
「元はと言えばアンタがぶつかってきたのが――」
昨日は謝りもしなかった女子が俺を怖がるように見て謝っている。
……もう何が何だか分からねえよ。
そんな意味の分からない違和感を抱えて翌日のこと――今度はまた、男性が女性に痴漢をして捕まるニュースがあった。
(……痴漢多いな!)
そんなツッコミをしたが、母さんはいつも通りだった……いつも?
また違和感。
「真治君、お弁当食べて? 頑張って作ったの」
「ほんとか? ありがとう流歌!」
ラブラブカップルがイチャイチャしてやがる……昨日は……あれ?
「……………」
立ち止まって状況を整理する。
僅かに頭に靄が掛かっている気もするが、少し考えたら分かることじゃないか――俺はまさかと思いながら、口にしてみた。
「男女の貞操観念とか価値観が……逆転したりしてなかったりしてね?」
そう口にした時、頭に掛かる靄が晴れていった。
……どうやら俺がずっと感じていた違和感、それはこの世界が事あるごとに貞操観念などの逆転が起きていることだったんだ!
こうして気付いた……気付いてしまった。
だがその頻繁な世界の変化に気付いたからこそ、俺はこれから先色んな意味で大変な思いをすることも想像出来たのだ。
【あとがき】
書籍作業の息抜きです。
貞操逆転は色々あるんですが、敢えて定期的にコロコロ変わってしまう物を書かせていただきました!
モチのロンでヤンデレ物です。
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