XXを殺すかもしれない

坂本 光陽

第1話 はじめに


 誰にも書けない作品を手掛けたい。作家なら誰でも、そう考えるはずだ。

 誰にも書けない作品とは、言い方をかえれば、自分にしか書けない作品である。独自の視点や切り口、斬新なアイデアやモチーフ、そういったものが必要になるだろう。


 もっとも、売れ筋からジャンルを決めて、適当なテーマ、キャラクター、ストーリーを考える方法もある。それが間違いだとは思わない。ただ、そういった作品を書き続けることは苦痛をともなう。


 だから、書きたいものを書くことにした。自分の好きなもの、興味があるものを列挙して、とりあえず、五本の長編小説を書いてみた。ジャンル的には、ホラー小説が二作、ライトノベルが二作、恋愛小説が一作だ。かなり時間がかかったが、わかったことが三つある。


 苦手なものや興味のないものは避ける。

 取材や資料探しは納得できるまで行う。

 実際に体験したものは大きな力になる。


 独自性を打ち出すことを考えると、三つ目が重要になるだろう。実体験を作品に盛り込むことは何度か経験したが、とても書き心地がいい。リアルさが伝わって読み手に共感してもらえれば、評価も得られるだろう。うまくはまってくれれば、傑作になる可能性もある。


 さらに思いついた。実体験を作品に盛り込むより、自分自身をモチーフにしてみてはどうだろう。ざっくり言えば、実体験の数珠つなぎのような構成になる。僕の人生と照らし合わせる形で、恐ろしい物語を浮かび上がらせるのだ。


 ジャンルはホラーになり、キーワードは「死」か「殺意」、もしくは「殺人」になる。実話怪談も盛り込む。僕自身が経験した怪談である。全体的に暗めのムードになるだろうが、ユーモアを交えることでバランスをとる。


 これまでの小説にはなかったものをするつもりだ。

 例えば、こんな書き出しはどうだろう。


                  *


 あなたが初めて「死」を自覚したのは、いつだろうか?

 僕の場合は小学二年か三年の頃だった。家族と一緒にテレビを観ながら鍋料理をつついていて、ふと思いついてしまったのだ。


 僕はいつか死ぬ、必ず死ぬんだ、と。

 飼っていたカブトムシが死んでしまい、それまではテレビアニメやマンガの中でしか知らなかった「死」を、身近なものとしてとらえたからだろう。


 死が逃れようのない現実だと知った時、僕は心の底から恐怖した。食卓には水炊きの鍋があり、ポン酢醤油につけて食べていたのだが、まったく味がしなかったことを、つい昨日のことのように覚えている。


 カブトムシの死をさして、「電池が切れた」と言った子がいたようだが、僕には石や木片のような「もの」にしか見えなかった。今ならば「魂の抜け殻」と表現するかもしれない。この時から、僕の中ではカブトムシは「死」の象徴になった。


 そういえば、カブトムシにまつわる実話怪談を書いたことがある。

 タイトルは『人喰いカブトムシ』だった。


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