第10話

月曜日

「静羽、最近いいことあった?」

 昼休みに一緒にお弁当を食べていた優花がそんなことを聞いてきた。

 私はそんなに浮かれた顔をしていたか?

いや。デートという名目だっただけで、特に「いいこと」はなかった。自分にそう言い聞かせて私はおにぎりを頬張る。

「なんか、ちょっとふわふわしてるよね。」

 中村舞なかむらまいこと「まいまい」もサンドイッチ片手にそう言う。

 「いやー。何もないよ?」

 馬鹿っぽい声を出すときは抑揚とメリハリを意識する。そんなことを脳内で考えながら答えた。

 「ふわふわしてるのは、今に始まったことじゃないか。」

 優花はそう言って箸を進める。 

「定期テストが終わったら、修学旅行じゃん。たぶんそれだな。楽しみだもん!」

 私は適当に理由をつけて誤魔化した。

 実のところ修学旅行は楽しみだ。嘘はついていないし、口が裂けても駿と付き合ってるなんて言えないし。この返答は最適解だ。


 駿は女子の間でそこそこ人気があるという話には続きがあって、優花はその一味なのであった。

 私は駿に弱みを握られ、あくまで付き合わされているといった状況だ。それだけならいいのだが、相手が親友の好きな人となるとちょっと問題がある。

 頭を使って別れなければいけない状況にすることもできるが、別れた後に秘密をばらされてしまったら困る。

 間違っても駿を敵にするような真似はできないので意外と厄介な状況だなと思った。


 「五時間目のホームルームはきっと修学旅行の班決めだろうねー。」

 優花はそう言ってお弁当箱を片付けるのだった。


 「テストが終わったら、皆さんお待ちかねの修学旅行ですね。この時間は、班決めを行ってもらいます。」

 優花の予想通り、五時間目は班決めを行うらしい。

 今年の目的地は宮坂地区で3泊4日の予定らしい。

 宮坂は、遠い昔に幕府があったとか政治の中心地だったとかの理由で歴史的建造物が多く存在する。寺や神社に加え世界遺産も多く全国の学生が修学旅行に訪れるてっぱんの地だ。

 聞けば、修学旅行の二日目はこの班で行動するらしく、結構重要な班になるらしい。


「うちのクラスは40人なので8人班を5つ作ります。まずは、女子のみ男子のみで4人グループを作ってください。」

 4人グループか…。私たちは6人で仲良くしているので、どのように分かれよう悩む。


「4人と2人に分けるのはどう?3人づつにすると、一人ぼっちでうちのグループに入る子がかわいそうじゃん。」

優花の考えに私はそうだねと頷いた。

「じゃあ、グッパで決めよう。」

 まいまいがそう言うと私たちは六人は揃って拳を付き出した。

 「グッとパーでわかれましょう!」

 このグーとパーでチームを分けるやつは地方によって呼び名が違うんだよな。この辺りは「グットッパ」とか呼んでるけど西の方に行くと「ぐっぱでほい」とか、そもそもグーとチョキで分ける地域もあるんだっけ。どうでもいいことを考えているうちにチームは決まった。私とまいまいがパーで優花とその他三人がグーだ。 

「じゃあ、これで決まりだね。」 

まいまいの言葉に私は「やったー!まいまいと一緒だー!」と抱きついてみる。 

「もう。静羽は甘えん坊なんだから…!」 

と言いつつまいまいも私を抱きしめる。

 中学校の時のクラスの一軍女子がやたらベタベタしていたが、あれはどういう心理なのだろう。 

 実際にやってみたわけだが行動心理は理解できなかった。

 どこかでオキシトシンとかいう物質はスキンシップで多く分泌されるようになると聞いたことがある。オキシトシンはストレス緩和効果があると聞くので、つまり彼女らは異常なスキンシップでストレス解消しているのだろう。 


 

 「それでは、男女ともに4人組ができましたので、男女混合班を組んでください。」 

 男子4グループ女子4グループが出来上がったので、この8グループを組み合わせて4グループにするらしい。 

私とまいまいも、とりあえず女子2人と合流して適当に4人グループになっていた。 

「どこのグループとくっつく?」 

3人に尋ねたが、自分を含めて特に希望はないらしい。じゃあ適当にそのあたりのグループと組むか。

 せっかくだから…。私は右へ左へ視線を移し彼を探した。

  

 「ねえ、良かったら一緒の班にならない?」 

遠くで聞こえたその声の主は優花だった。優花が話しかけていた男子は「うん。いいよ。」と返す。そのグループに駿がいた。 

 なるほど。優花はわかりやすいことをするなと思う。そう思いながら駿の方を見ると、目が合った。 

 特に何を話すわけでも、表情を変えるわけでもなく、じっと互いを見つめていた。 

 たぶん私たちは今、同じことを考えている。 

目を合わせていられなくなって、私の方から目をそらした。 

 

 「あまってるの俺らだけだぞ。」 

 そう言って私たちのグループに声をかけてきたのは健太だった。 

「そうだね。じゃあこれで決まりかな。よろしく!」 

私はいつも通りの明るい声で健太に返す。私がニコッと笑うと健太も笑い返してくれた。 

 

「それではすべての班が決まりましたね。自分の席に戻ってください。」 

先生の言葉で私たちは席に着く。 

 仲が良い子と同じ班になったとかなれなかったとか教室は騒がしかった。 

私は窓の外を見ながらぼんやり思う。

 

修学旅行中に、優花が何もしないはずがない。 

なんか、すごく嫌な気分だ。 






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