あまりにも頭脳明晰なもんで、恋愛にはむきません!

しろ

第1話

 坂口静羽さかぐちしずはは今日も窓の外を見ていた。


つまらない授業中は睡魔と格闘しつつ、たまに顔を上げて話を聞いているアピールをする。

 それでも退屈なことに変わりはないため、しょうがなく窓の外に意識を向ける。


 風が吹くと木々が揺れる。数枚の葉が落ちてひらひらと舞っていく様子を眺めるていると鳥が飛んできた。

 シジュウカラだと思われるその鳥は木の枝に止まると右へ左へ小さな頭を動かす。

 

 なにをしているのだろうと、思わず私も頭を動かす。

 鳥のようにかくかくと顔を動かしながら右を向いた瞬間、柴田駿しばたしゅんと目があった。不思議な行動が目撃されていた。少し恥ずかしいな。

 私はゆっくりと微笑んでごまかすと、姿勢を正して授業に集中した。

 もう授業中に鳥の行動原理を推測するのはやめようと心に誓った。

_____________________


 「ねえ、次の定期テストっていつだっけ?」

休み時間、友達の優花が尋ねてきた。

「一ヶ月後だね。まだ余裕でしょう。」

 私は笑ってみせる。

「まあ、静羽にとってはテストなんてどうでもいいのかもしれないけど、私はちょっと頑張らないとな。」

 優花はそう言って数学の問題集を開くのだった。

 

「静羽も、もう少しちゃんと勉強したら良い点とれるんじゃない?いつも平均点からプラス2点とか5点とかじゃない。」

「べつに、どうでもいいわけではないし…。良い点もとりたいけど…。勉強よりも高校生らしいことしたいじゃん?」

そう言うと優花と目があった。

「悪魔のささやき…!」

 優花はそう言って立ち上がり私に尋ねる。

「今日の放課後、カラオケ行かない?」

「もちろん。」

 テスト勉強を始めようとした優等生はすぐに気分を変え、なんだかんだで4時間カラオケにこもるのであった。


 優花を一言で説明すると、女神だ。名前の通り誰に対しても優しい。花が開いたりしおれたりするように、彼女の表情も豊かであり一緒にいて楽しい。私のようなを被った女にも優しく接してくれるわけで、時々ドジをする姿も可愛く、挙げるときりがない程の魅力がある。

 一ヶ月前からテスト勉強をするといいつつ、成績は中の上くらいで理系文系関係なく高得点だ。

 ほどほどな頭のよさが私にとって都合がよく、今のような関係に至るのであった。


「かれこれ四時間過ぎてるね…。そろそろお開きにしようか。」

 優花はそう言ってお菓子のごみで散らかったテーブルを片付け始めた。


「家に帰ったら、やらなきゃいけないことがあった気がするんだけど…。」

私は頭の中で提出課題を思い浮かべる。

「日本史のレポートだよ。月曜日提出の!」

「あー。あったね。そんなもの。」

 日本史のレポートか。そんなものとっくに終わってるよ。もう少し重要な課題があったような気がするが…。もう思い出せないから諦めよう。

 「提出物はちゃんと出すんだよ!」

 優花はそう言ってにっこり笑った。




 優花と一緒にゴミを片付け、私たちはそそくさとカラオケを出た。


 「じゃあ、また月曜日ね。」

 駅前で手を振って、私たちは別々の方向の電車に乗った。

 車内でパッと目に写った広告の数字を見て思い出した。

「次の日曜、ということは明後日、数学検定だ…!」


_____________________


 三日間の猛勉強でどうにかできるものではないので、あえて私はノー勉というやつで挑むことにした。そもそも、検定を受ける前に猛勉強をするなら合格は当たり前だと思う。いつも通りの状態で試験を受けて合格することこそが本当の実力の証明だ。

 

せっかくの休日を検定に費やすなんてもったいないと思いつつ、私はしぶしぶ会場のある隣町まで出向いた。


 会場に入ると、入り口に受験番号と部屋割りの説明表が張ってあった。ほどほどに人がいるため、後方から目を凝らして自分の番号を探す。

 左上に「一級受験者は全員4階大教室」という文字を見つけ、指示通り4階まで階段を上った。

 「大教室…。大教室…。」

 忘れないように呟きながら歩くと、その名の通り大きな教室があった。


 ここか。私は「大教室」と書かれたプレートを確認しながら部屋に入ると、柴田駿が中にいるのであった。

 ぺこり。

さりげなく会釈して奥の席へ進む。

私はあえて話しかけなかったのに、駿は私に話しかけてきた。これはまずい…。

「おまえ、何でこんなところにいるんだ…?」

やはりこれだ。5級の会場は一つ上の階だとでも言いたげな目で私を見ている。

「検定を受けに来た以外の理由があるなら逆に教えてほしい。」

私は、駿の顔を見上げ蔑むような声で言った。


 言い終わってから、自分の過ちに気がついた。

「ほら、たまには数学の勉強とかやったほうがいいじゃん。」

 いつも通りの馬鹿っぽい声で付け足しておいた。

「…。まあ、何でもいい。」

駿は何かいいたげな表情を見せたが、私の異常な笑顔から察したのか何も尋ねてこなかった。


 あーあ。どう口止めしようか。

頭の良い駿のことだからきっともう気づいているだろう。


 私は馬鹿を演じている。

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