彼女が宇宙人だとわかったけど、俺の性欲は止まらない

生出合里主人

彼女が宇宙人だとわかったけど、俺の性欲は止まらない

 俺と彼女は今、ホテルのベッドで全裸になっている。

 交際を始めて三ヶ月、ついに童貞を捨てる日がやってきたんだ。


「マイスイートハニー、本当にいいんだね」

「いいわダーリン。わたしを大切にしてくれるなら」


「もちろんさ。俺は君を未来永劫、離しはしない。たとえこの星が木っ端微塵に吹き飛んだとしても」

「ダーリンって、相変わらず言うことがキザね。でも、嬉しいわ」


「じゃあ、いくよ。……あれ? おかしいな」

「どうしたの?」


「まずは指で君の大事なところの位置を確認しようと思ったんだけど、なんか見つからないなぁ」

「あ、ごめんなさい。入り口を地球人に合わせるの、忘れていたわ」


「え? 地球人に合わせる? それなんの話?」

「あっ、言っちゃったっ。まあまあまあ、気にしないで続けて」


「いやいやいや、メチャクチャ気になるじゃんか。ちゃんと話してくれよ」

「じゃあ、しょうがないから白状するわ。実はわたし、宇宙人なの」


「は? 宇宙人? ってことは、この星の人じゃないってこと?」

「そう。わたしは地球から約三万光年離れた惑星、イグノラムス星から来たイグノラムス星人なの。この星を侵略して、この星の人類は全員殺すか奴隷にするつもりよ。その第一段階として、地球人のふりをして調査をしているの」



 しばし沈黙が流れた。

 俺たちはお互いの顔を見つめて、苦笑いする。


「ごめん、あのさ……なに言ってんの?」

「あ、すぐに信じられないのはわかるんだけど、実際わたしの股間には入り口がないでしょ? それが地球人ではない証拠よ」


「確かに今、その問題で困っているわけだけど」

「この体はね、ナノマシンを使って地球人女性の形状を模しているだけなの。だけど地球人女性の性器に関する情報が不足していて、膣の位置だけ元のままだったのよ」


「ええと、頭がカオスで全然わかんない」

「あのね、目に見えない小さなマシンが無数に集まって、地球人の肉体を形成しているの。つまりわたしの本当の姿は、今見えている姿とはまったく違うってこと」


「そんな話、信じられるわけないじゃん。ジョークとしてはおもしろいけど、せっかくいいムードなんだからちゃかさないでくれよ」

「ならダーリンには特別に見せてあげる。驚いて心臓発作とか起こさないでね」


 そう言うと彼女は、左手の人差し指を天井に向けて突き出した。

 その白くて美しい指が突然姿を変え、黒くてゴツゴツした指に変わる。


 それは映画やアニメで見る、凶暴なエイリアンの指に似ていた。

 かと思えば、すぐに元のきれいな指に戻る。


「なんだそりゃーっ! 怖すぎるだろーっ!」

「ごめんね、驚かせて」


「なんか俺、夢を見てるのかな。君とセックスがしたくてたまらなかったから、君とセックスできそうでできないっていう夢を見ちまったんだ。きっとそうに違いないよぉ」

「落ち着いて。これはリアルよ」


「じゃあリアルの君は、どんな姿をしてるっていうんだよぉ」

「うふ、それは知らないほうが身のためよ」


「でも気になるし」

「気にしちゃ、ダ・メ」


 どうやら、地球人女性のままでいてもらうほうが良さそうだ。



「君の本当の姿もすっごい気になるんだけど、君の大事なところがどこにあるのかってことも、すげえ気になるな」

「あ、それならお腹にあるわよ。地球人でいうところの、おへその辺り」


「そんなバカなぁ。……あれ? これはおへその穴じゃない」

「ちょっとぉ、いじくるのやめてよぉ。やめてってばぁ」


「おっと、感じてるのかい、マイスイートハニー」

「ここはドン引きするところでしょ。なにその気になってんのよっ」


「そりゃあその気になるよ。こんなにステキな君と、イチャイチャしてるんだから」

「ちょっとダーリン、わたしが宇宙人だってわかったのに、まだその気なの?」


「当然さ。どんなことが起きようと、この胸の高鳴りを抑えることはできない。おへそが入り口だっていうなら、俺はそこへ入っていく」

「それって、誰でもいいからとりあえず童貞を捨てたいってこと? たとえ相手が得体の知れない宇宙人でも? 初体験の緊張で、なにも考えられなくなってるんじゃないの?」


「俺はいつだって冷静さ。心から愛する君だからこそ、ずっと守ってきた童貞を捧げたいんだ」

「本気なの? わたし、地球を侵略しにきた宇宙人なのよ。ダーリンを奴隷にするかもしれないし、殺してしまうかもしれないのに」


「そんなことはいいから、とにかくしよう」

「どんだけやりたいのよぉ。頭の中、それしかないわけ? ダーリンのメンタル、すごすぎるんだけど」


「だって宇宙人だろうがなんだろうが、君は君じゃないか。俺にとっては、人類の命運よりも君とのセックスのほうが大事なんだ」

「そんなにわたしのことが好きなの? ちょっとバカっぽいけど」


「恋をしている男は、みんなおバカさんさ。気が狂いそうなほど、君のことを愛してる。だから君が欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。このピュアな気持ち、わかってくれ」

「もう、ダーリンたらっ。ダーリンの性欲って、宇宙よりも果てしないわね。でもそこまで言うなら、してあげてもいいわ」


「ところで、君の本当の体って……」

「今いいところなんだからぁ、ちゃかしちゃ、ダ・メ」


「オーケー、マイスイートハニー。じゃあ、あらためていくよ」

「あの、入り口がギザギザになってるからちょっと痛いと思うけど、がまんしてね。こういう時は血が出るものだし」


「なんかすっごい怖いこと言われたような気もするけど、俺はもう止まらないぜ」

「その無謀な勇気、最高よ。ダーリンのこと、ほれ直しちゃった。そしたらあとは、入り口の位置に気をつけてね」


「任せてくれ。ええと、ええと……」

「ちょっと、なにやってんの? そっちじゃないってばぁ」


「え、なにが違うの? 俺の大事なものを、ハニーの大事なところに入れようとしてるんだけど?」

「わたしの入り口は地球人女性よりも上の位置にあるのよ。なのに下に下がってどうすんのよぉ」


「だってハニーのお腹と、俺の脇を合わせないといけないわけだから」

「ちょっとなんなのそれ! なんで男の大事なものが脇の下にぶら下がってるのよ!」



 彼女は俺の脇の下から出ているものをガン見しながら、口をあんぐりと開いていた。


「え? なんかおかしい?」

「おかしいに決まってるじゃない! 地球人の男なら、股間にぶら下がってるはずでしょ!」


「あれ? そういうもんなの?」

「脇に生殖器があるなんて……。まさか、ダーリンも宇宙人だったの?」


「いやぁ、そんなつもりはないんだけど……」

「その身体的特徴って、まさか……モッコリ星人? ダーリンはわたしたちイグノラムス星人にとって最大の敵、モッコリ星人だったのね!」


「モッコリ? ……そう言えば、そんな名前を聞いたことがあるような、ないような……」

「とにかくセックスのことしか頭になくて、全身が下半身ともいわれている、あの悪名高きモッコリ星人よっ。宇宙一キザで、でも全然かっこよくないことでも有名だわ。まさにダーリンの特徴と一致するじゃないっ」


「なんか俺、ディスられてる? でも前にも、そんなことを言われたことがあるような……。うっ、無理に思い出そうとすると、頭が痛むっ」

「そっか、わかったわ。モッコリ星人の宇宙船は性能が悪いらしいから、地球に来る時事故って、頭打って記憶なくしたのね」


「そうか、思い出したぞ! 俺は地球人のことを調査するため、地球に潜入した。イグノラムス星人よりも早く、この星を手に入れるために」

「そうよ! わたしたちは地球を奪い合うライバルだったんだわ!」



 彼女はとっさにシーツを体に巻き付け、壁際へ飛びのいた。

 彼女の赤い爪がみるみる五十センチほど伸びて、するどい刃物のようになっている。


「待ってハニー。俺と君はセックスをしようとしてるんだ。戦うのはセックスの後でもいいだろう」

「この状況でよくそんなこと言えるわね。さすがは宇宙一エロいと言われるモッコリ星人だわ。そもそもネーミングがしょうもないし」


「星の名前を悪く言うのはやめてくれ。そういうのは差別だろう。銀河人権委員会に訴えるよ」

「なんでそういうことだけは覚えてるのよっ。訴えられる前に、ダーリンを始末させてもらうわ」


「なあハニー、その物騒なものはしまってくれ。俺は君と戦いたくない。愛し合いたいんだ」

「確かにわたしはダーリンを愛していた。ダーリンと夫婦になって、このまま地球人として生きてもいいとさえ思った。でもわたしは王族として、自分の使命を果たさなきゃ。だから許して。さよなら」


 十本の真っ赤な爪がさらに伸びてきて、俺の体に突き刺さった。

 もうダメだ、と俺は思った。



「あれ? 刺さってるけど、痛くない」

「なんてことなの! 刺さったところがモッコリして、これ以上刺さっていかないわ。これがモッコリ星人のモッコリボディなのねっ。恐るべし、モッコリ星人!」


「今度はほめてくれたんだね。攻撃してもムダなようだから、セックスに戻ろうよ、マイスイートハニー」

「ダーリン、どこまでセックスが好きなの? なんかわたし、真剣に戦うのがバカらしくなってきたわ」


「それは正しい感覚だよ、マイスイートハニー。君も心の中では、俺とのセックスを楽しみたいと思っているはずさ」

「ちょっと、両方の脇の下に男の大事なものがぶら下がってるじゃないのっ。なんのために二つもついてるのよっ」


「それはまあ、膣と肛門両方いっぺんにいくとか、3Pするとか」

「サイテー」


「一発終わったら、すぐにもう一発いくってことにも使えるよ」

「それは悪くないわね。……いやだぁ、二つともビンビンじゃない」


「それは君の魅力のせいさ。これ以上、こいつらを待たせないでやってくれ」

「でもわたしたちは敵同士。戦うことは運命なのよ。そんなわたしたちが、あんなことやそんなことをするなんて……」


「マイスイートハニー、たとえ生まれた星が違っても、俺たちは心から愛し合っている。痛いことなんかやめて、もっと気持ちいいことをしようぜ」

「そんなこと言って、わたしの体にその太いものを突き刺すつもりのくせに」


「だいじょうぶだよ、マイスイートハニー。最初は痛いだろうけど、だんだん気持ちよくしてあげるから」

「ならわたしを、宇宙の果てまで飛んでいかせて」


「第一主砲、ファイヤーー!!」

「あ~ん、ワープしちゃうわ~~!!」



 俺たちは、ついに結ばれた。

 二発いっといたことは、言うまでもない。


「良かったよ、マイスイートハニー」

「ステキだったわ、ダーリン」


「俺たちは、この地球という星で結ばれた。それを記念して、地球人類を滅ぼすのはやめておかないか」

「そうしましょう。血が流れるのは、セックスの時だけで十分だもんね」


「マイスイートハニー、この俺と結婚してくれないか。俺はこの命果てるまで、君とひと時も離れたくない」

「嬉しい。わたし、ダーリンとの結婚を父上に進言してみるわ」






 かかったな、フィーリア姫。


 彼女はイグノラムス王朝の第二王女という身分にありながら、辺境の地であるこの星の侵略を命じられた。

 彼女は大艦隊に先行して地球に乗り込み、単身で地球の実態を調査している。


 王族でありながら単独行動をしているのは、地球に彼女よりも強い敵はいないと判断したからだろう。

 甘いんだよ、お嬢様は。


 一方の俺はモッコリ星最高司令官の息子であり、諜報機関のエリートスパイ。

 敵の姫を調略するという密命を受け、見事にハニートラップを成功させたというわけだ。



 だが、俺にはわかっている。

 彼女が途中で罠だと気づいていたことを。


 しかし彼女はあえて、俺の誘いに乗ってきた。

 つまりこの結末は、俺たち二人の意思だということだ。


 それに俺の大事なところが二つともギンギンだったのは、彼女が本当に魅力的だったから。

 彼女の本当の姿はまるで違うという点については、まあお互い様なわけだし。


 俺としたことが、まさかターゲットに本気でほれちまうとはな。

 だけど俺たちなら、あらゆる障害を乗り越えて、禁断の恋を成就させることができるかもしれない。



 俺たちの愛が、宇宙の歴史を変えるんだ。






 銀河暦31579年、イグノラムス星人とモッコリ星人は、史上初めて平和条約を締結した。


 この歴史的な快挙により、二千年の長きに渡って続いた銀河戦争は終結する。


 この銀河全体を巻き込んだ大戦争のことを、銀河の片隅にある地球の人類はまだ知らない。



 しかし銀河の中心部では、次のようなメッセージが駆け巡っていた。



「銀河の同胞たちよ! 戦争なんかやめて、セックスをしようぜ!」

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