第3話放課後の一幕

「ネット上でチャットをしている時に私も同じ様な悩みを抱えていたんですよ」

放課後のことだった。

帰りのHRが終わると鞄に教科書などを詰め込みながらマロンは僕に口を開く。

「そうなの?さっきのダイエットの話に繋がる感じ?」

僕も何となしに話が理解できたため荷物を詰め込みながら応答した。

「はい。私も自分の体型にコンプレックスを抱いていて…そんな時にたまたま同じ様な悩みを抱えた若菜さんに出会えたんです。話を聞く内に私は若菜さんを励ますと同時に自分も奮い立たせていました。そして毎日の結果報告に私は勇気をもらってダイエットを始めたんです。だから…感謝します。本当にありがとうございました」

マロンは僕に真剣な表情で感謝を告げてくる。

それに応えるように薄く微笑んで頷く。

「先に勇気をもらったのは僕の方だし。本当にお互い様だよ」

「私が勇気を与えたでしょうか?」

「もちろんだよ。性別もわからない相手だったけど…ネット上で篠田だんは僕を対等な人間として扱ってくれた。それが本当に嬉しかったんだ。こっ酷く振られたばかりだったから人の温もりをネット越しでも存分に感じられて嬉しかったんだ」

正直な気持ちを言って聞かせるとマロンもくすぐったそうな表情で頷く。

「やっぱり初対面な気がしませんね。出会えて嬉しいです」

「うん。僕もだよ…」

僕とマロンは二人して少しだけ良い雰囲気に包まれていた。

「ちょっと!若菜!」

その様子を何処かで見ていたのかミカは僕らの元までやってくる。

「ミカちゃん…どうかしたの?」

あっけらかんとした表情でミカに接すると彼女は不満げな表情を浮かべていた。

「どうかしたって…私よりもその転校生を選ぶっていうの!?」

ミカは学校一の美人と言うことを自分で理解しているらしくプライドもその分高かった。

「え?うん…そうだね…」

マロンの前ではあるのだが正直な気持ちを口にするとミカはウザったそうな表情を浮かべて今にもキレそうな顔をしていた。

「は?その転校生の何が特別だっていうの?私のほうが特別でしょ?」

そんな言葉を恥ずかしげもなく口にするミカに僕は思わず苦笑の表情が漏れる。

「そうだったかもね。夏休み前までは」

「今は違うっていうの?」

「違うね。僕の中ではマロンが特別な存在になったよ。他の生徒全員がミカちゃんを選んだとしてもね」

「何をそんなにこの娘に執着しているの?ただ意地になっているだけでしょ?」

「そんなわけ無いでしょ。僕にはマロンしかいないって思えるんだ。だからごめんね」

「………本人を前にしてよくそんな言葉吐けるわね…こっちが恥ずいんですけど…ってかそういうのキモいし。じゃあね」

ミカは負け惜しみのような言葉を口にすると怒りで顔を赤く染めそっぽを向いて教室を抜けていくのであった。


「じゃあ僕らも帰ろうか」

一連の騒動が幕を閉じたのでマロンの方へと視線を向けると彼女も顔を赤くしてもじもじとしていた。

「えっと…?どうしたの?」

意味が分からずにマロンの目を見つめる為に覗き込もうとするが彼女は両手で顔を隠した。

「なになに?どうかしたの?」

本当に意味がわかっていない僕にマロンは首をブンブンと左右に振ると口を開く。

「何でも無い!一緒に帰るんでしょ!?早く外に行こう!まだ残暑で暑いなぁ〜!」

マロンは何処か何かを隠すような言葉を口にして鞄を手にする。

僕もそれに倣って鞄を手にすると揃って教室を抜けるのであった。


次回は放課後デート!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る