「魔王様、僕達は異世界転生したみたいです」「うむ、そのようだ」

@nizinopapa

第1話 再会 邂逅 犬の糞

「――――と言うタイトル通り、勇者に殺されたら現代日本に転生したわけだ」

「初っ端からメタ発言での説明ありがとうございます魔王様。それはともかくお久しゅうございます」


 僕は目の前でつるぺたな胸でそり返る銀髪美少女に頭を下げていた。


 場所は日本、時は現代そして冬休みも初日、生まれた時から前世の記憶を持っていた僕は、かつて仕えていた魔王様と再会したのだ。


「うむ、久しいな腹心。お前もこっちに来ていたか」

「はい。それにしてもなぜうちの門に犬の糞を塗りたくっていたんですか魔王様?」


 元主人の美少女の手には、ビニール袋に入った犬の糞とスコップが握られている。


「決まっておろう。この豪邸がお前の家とは知らなんだ。それに魔王足るもの人間に恐怖を与えるのが仕事だからな」


 悪びれる様子はない。それでこそ魔王様だ。


(最近使用人が愚痴ってた嫌がらせの犯人は分かった。……まあそれはいいとして)


「なるほど……。それはそうと、少し見ない間に随分ミニマムキュートになりましたね」


 先に述べた通り、魔王様はつるぺた美少女の姿をしている。腰まで伸びた艶のある銀髪。琥珀を思わせる金色の瞳。それに白いもふもふコートに包まれた小さな体。

 前世のボンキュッボンなグラマラス魔王様とは天と地ほどの差だ。


「仕方あるまい。今の私はまだ12歳。そしてお前を見るに、元の世界とこっちでは時の流れが違うようだ。私より少し早く殺されたお前の方が、何年か先に転生したようだな」


 どうやらそうらしい。しかし姿形が変わっても魔王様は魔王様だ。その姿を見た瞬間に、かつての主人だと魂が悟ったのだ。


「じゃあここらで自己紹介でもします?」

「うむ。お前とは気心知れた仲だが一応な」


 お互い正面に向き合う。近くを歩いていたお爺さんが、怪訝そうに僕達を見ながら通り過ぎていく。通報しないでくれるとありがたい。


「僕は七条司(しちじょうつかさ)。七条財閥の跡取りで現在16歳。かつて魔王様に仕えていた魔族でございます」

「私は橘茉央(たちばなまお)。平凡な家の娘として転生した12歳の元魔王であり美少女だ」


 互いに自己紹介を済ませた僕達は、どちらともなくスマホを出し合う。そしてまるで示し合わせたようにLINEの画面を表示した。


「とりあえずLINE交換しますか」

「うむ、そうだな」


 こうして、僕と元魔王様の奇妙でハートフルなほのぼの日常ストーリーが幕を開けたのだった――――。


 P.S 犬の糞はそのままにしておいた。

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