世界最強ジョブマスターには誰にも言えない弱点があった!
@vap
第1話
荒地にはただ、風が吹いていた。
砂埃をあげ、風が吹き抜けるそこには誰一人としていた痕跡はなし。
そしてまた、別に荒地が生まれ風が吹くのだった。
「ふぃ〜…やれやれ疲れたなぁ…」
僕はため息をつくと、いつもの椅子に腰をかける。
「いらっしゃいませ、十全様。」
黒衣の正装を見に纏った男は僕に話しかけた。
「あぁマスター、いつもの頼むよ。」
「かしこまりました。」
マスターはそう言って軽く会釈をすると、後ろの棚から札のついたボトルと、カウンターの下から炭酸水を取り出してカウンターに置いた。
「こちらはサービスでございます。」
出されたのは紅魚の干し肉、僕の好物だ。
「い、いいの!?マスターこれ、良い値段したでしょ!?」
「はは、お気になさらずにどうぞ…」
「こんなの出されたらお酒が進んじゃうよ〜…」
と、言っている僕の口角はかなり上がっているだろう。
紅魚の干し肉は安価なものと品質の高い高価な物だと、見た目からかなり変わる。
高価な物は文字通り輝いて見えるものだ。
「う、うまぁ…」
舌先に乗る程度を口に運んだだけで溢れる旨味に、僕は頭を抑えた。
「はは、お気に召されたようで何よりです。」
そう言ってマスターは微笑んだ。
(神、か…?)
僕は目の前に神を見た。
しばらく酒と嗜好品を嗜んでいると、後ろの客の話声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?戦地の女神を見たって話!」
「あぁ、悪魔に蹂躙された戦地に颯爽と現れて敵味方構わず治療魔法で癒すって奴だろ?」
「そうそう!しかも死人すら蘇らせるらしいぜ!」
「無差別に殺戮していく悪魔なんかよりよっぽど良いぜ…」
戦地の女神に悪魔の話、僕はこの話が凄く嫌いだ。
それに感付いて、マスターは軽く咳払いをしたあと声のボリュームを下げるように促した。
「あ、ありがとうマスター…。」
「いえいえ、酒の場ではそれにふさわしい話とそうでない話がありますから…」
「あぁ、そうだね…」
どうやらマスターもあの話は好きではないらしい。
「それじゃマスター、僕はそろそろお暇するよ。」
「えぇ、またいらしてください十全様。」
「うん、また来るよ。」
そう言って僕はお代をカウンターに置いて、その場を後にした。
帰路、僕は殺意を感じていた。
(うーん、上手く気配を消して着いて来てるけど殺意が漏れ出てるな…)
おそらくただの追い剥ぎだろう。
そう思って僕は道を外れ、林道へと向かった。
(よしよし…着いて来てるな…)
追い剥ぎ(仮)が完全に林道に入った事を確認すると、僕は気配を消すスキルを使用してそいつの後ろへと回り込んだ。
「はっ!?なっ!?」
突然ターゲットの姿が消えた、かと思えば回り込まれ首元に刃物を当てられたこいつは驚き戸惑っていた。
「やぁこんばんわ、人を殺すなら殺意は消さないとね?」
「くっ…そ!ただの金持ちのガキじゃねぇのかよ!」
と、言って抵抗を見せる。
「うん?よく見ればさっき後ろででかい声で話してたおっさんじゃねぇか!」
「はっ!高そうな酒に嗜好品まで頼んでるもんだからちょーっとばかり恵んで貰おうと思ったんだよ!」
悪びれもせず、むしろまだ悪態をつく。
「はぁ…お金ないなら全うに働きなよ、おっさん。」
「うるせぇ!ガキが舐めた口聞いてんじゃねぇ!あと俺はまだ16だ!」
(16!?この見た目で!?どう見ても40代だろ!?)
衝撃の発言に僕は戸惑ったが切り替えて冷静さを取り戻した。
「てか16が酒飲んだらダメだろ!何やってんだ!」
「あぁ!?おめぇも同じようなもんだろが!」
はぁ…とため息をつき、僕は首を振る。
「残念、僕はもうすぐ30(0)だよ。」
そう言って、男の頭を殴って失神させた。
「やれやれ…身長とこの顔のせいで本当大変だよ…」
僕はエルフと人間の混血だ。
しかし母の血を濃く受け継いだらしく年齢と見た目が合っていない。
僕はまた、深くため息をついて自宅へと帰るのだった。
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