落ちた地で(2)
(本編が進まなかった場合は、可能な限り一日に2話投稿します)
◇
「凄い、昨日の今日でこんな……」
孤高の地の村に拾われた翌日には、俺は立って歩けるようになっていた。
ライラは大きな目を見開いて驚いていた、これは相当な回復力なようだ。
「流石は梟の英雄……」
「ガキの頃から、身体だけは丈夫だったんだよ。
梟って、こんなところにもそういう噂は流れて来るのか? 」
「何、此処が田舎だって言いたいの?
ふふ。紛れもない田舎だね。
此処には電波も通ってないからね、お金がないから買い出しはあまりできないんだけど、月に一度ぐらいバイクで5時間かけて人里の方に行くんだ。その時にね」
「……5時間か」
王国の都市からここまで繋がる幹線道路は存在しない。
そもそも、それをつくろとしたら戦争になったのだ。
だから、空から見ても険しい山々のろくに整備されていない山道を通って行かなければいけない。
口には出さなかったが、こんな不便な場所のどこが孤高の地なのだろうか?
「その様子だと、もうご飯も食べられそうだね。
ご飯にしようか、碌なものは出せないけど」
ライラは俺を外に連れ出した。
地下なので階段を上がり、粗末な扉を開けると、建物の一階部にでた。
だが、室内はボロボロで生活感は無かった。
殆どの時間を地下で過ごしているのだろう。
更に扉を開け、屋外に出ると、そこは眩い程の銀世界だった。
極寒の風が吹きつけると、痛い位だ。
はるか上空で、何かが風を切り裂きながら飛ぶ音がした。
俺には音の正体が分かった、王国軍の
「あまり立ち止まらないで。
確率は少ないけど、流れ弾がとんできたことだってあるんだから」
「ああ、悪いな」
「え、聞こえなかった。
とにかく、早くこの建物の中へ」
ライラに案内されたそこは半壊した教会だった。
やはりそこにも地下室があり、そこを降りた先には先客たちがいた。
「ライラおねえちゃん! 」
現れたのは5歳から10歳ぐらいの男女児、5名だった。
皆が弾けるような笑みでライラによってたかったが、俺の存在に気が付くと、一転、顔をこわばらせて、逃げるように物陰に隠れた。
「あー、皆、怖がらないで。
ほら、せっかくのご飯なんだから」
子供達が席につき、気まずいことこの上ないが、俺も食卓につく。
此処で食卓の隅にいた村長の存在に気づき、一応目礼をすると、村長はニコニコとしていた。
大人は二人しかいないと聞いてはいたが、これは骨が折れそうだ。
食卓に並べられていたのは、パンとサワークラウト、それにソーセージが二本。
失礼な話だが、此処まで荒れ果てていたのだから、パン一つでも驚かなかった。意外と豪華だなと、心の中で思っていたら、ライラが俺の心を読んだように耳打ちしてきた。
「ソーセージはアイカの仕送りの分」
成程、俺の控除分は適切に使われているようだ。
しかし、子供たちはお互いに顔を見合わせて、何かの意思疎通を完了すると、全員のソーセージを一つの皿に集めて、俺に差し出して来た。
子供たちはなんとも名残惜しそうな目で、ソーセージを見つめている。
前に軍人が来たときに好き勝手やってたとか言ってたが、この状況で遠慮なく食料を奪い取ったのか、凄いなそいつは。
「いい、俺は腹が減ってないから」
逆に俺の分をソーセージを加えて、その皿を返した。
が、子供たちは俺の行為に困惑し、おずおずとその皿を返してきた。
その無意味な応酬が3、4回続いた辺りで、ライラの仲裁により、結局全員が全員もとの量に戻された。
曰く、怪我人はしっかり食べなければならないらしい。
早く仲裁すればよかったのに、ライラは無意味な応酬を見てしきりに笑っていた。
その後、食事の最中、彼女の勧めで子供達に何かを話してやれと言われ、しかたがないので適当な宇宙飛行士の話をした。
過去のブラックな話ではなく、宇宙ステーションで屁をしたら爆発するとかそんな笑い話だ。
そうこうしていたら、食後には何故だか子供に懐かれ、身体中にまとわりつかれていた。
「……俺は怪我人だぞ、助けなくていいのか? 」
「君は丈夫そうだし、嫌そうでも無いじゃない。
でも、そろそろ、横になった方がいいかもね。
あっ、最後に写真だけ撮らせて。皆、こっちむいて」
「「「ピース!」」」
◇
皆と別れ、俺の病室に戻るころには、空は夕暮れに染まっていた。
それでも、遥か上空から20mm機関砲の咆哮が聞こえて来る。
その空の下を、俺とライラは歩く。
「ごめんね、疲れた? 」
「ああ、疲れたな」
「そこは全然っていうところじゃないの? 」
しばらくの後、ライラは暗い表情をした。
そして、おそるおそる聞いて来た。
「気づいた? 私たちのこと」
「王国の言葉を使っているが、訛りは共和国のものだ」
「やっぱり、気づくよね」
ライラは暗い顔をする。
ライラは上手く誤魔化していたが、子供達は顕著だった。最初の頃、アイカの辿々しい喋り方も訛りを隠すためだったかもしれない。
俺個人は言葉なんてごく些細な事だと思う。
しかし、共和国が主張するかつての領地説を証明する一つの証拠となりうる。
だから、それを知っている王都の重役たちは彼女らを差別した。
「俺の胸にしまっておく。
空から見れば、そんなこと些細な事だ」
「……ありがとう。
そうだ、これも胸にしまっておいて」
彼女は先程取った写真に手渡した。
笑顔の子供たちに囲まれているのは、苦虫を噛み潰したような顔をしている大の大人……タイトルをつけるなら『光と闇』宗教画か何かかな。
「あと二日もすれば、怪我は良くなると思う。
町まで送るから、ちゃんとした病院で診てもらって。
……そういえば、君ってエースパイロットなんでしょ。
いなくて、王国軍は大丈夫なの? 」
「まさか、一人の力が戦争をかえることない。
俺がいなくても、何も変わらないさ。
多分な」
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