王都にて

「戦争をしている国とは思えないな……」


 俺は勅命とやらを受諾しする為、王都の空を飛んでいた。

 今まで配属されていた貧しい東部地方とは同じ国とは思えない、こうして空から地面を見下ろすだけでも王との繁栄ぶりをひしひしと感じる。

 現時刻は0時を回っていると言うのに、高層ビル達は光を灯し続けていて、各地に点在する娯楽施設は煌びやかなイルミネーションを放っている。

 コックピットを開ければ、賑やかな喧騒が聞こえてきそうだ。


「……こちらは王都中央空港管制、識別照合をおこなう。

 貴官は外国人傭兵部隊所属、13、ジョン・クーパーか?」


「そちらの照合は正しい」 


「承知した。

 王国航空432便の後に続き、滑走路03への着陸を許可する。

 通信終了」


 軍民共用の巨大な王都中央空港には夜間でも着陸できるよう多くの誘導灯が備え付けられ、それらは上流階級への道を誘っているようだった。

 いや、比喩ではないかもしれないな。

 呼び出された理由、詳しくは聞かされていないが、国王の直々の勅命となると報酬も弾むだろう。

 使い捨ての傭兵が、王都で返り咲く。

 下剋上。


「いい響きだ」


 ◇


「君がクーパー少尉?」


 俺はまたしても取り調べ室のようなところに通された。

 違うことといえば、俺の前に現れたのが今まで見てきた小物どもとは違いそうだと言うことだ。


「私はイリス・カーペンター少佐。

 遠路はるばるご苦労様」


 イリス少佐は女性将兵だった。

 年齢は……おそらく、俺より少し上27,8あたりか?

 控えめにウェーブがかかった長髪と、綺麗な目じりを筆頭とした整った顔立ちは、優しいお姉さんや、CAとか受付嬢を思わせる。

 だが、引き締まった口元からは軍人らしい厳しさを感じる。

 が、あまり期待はしない、王都の裕福な人間なんてプライドに溢れているに決まっている。


「まさか、自分のような人間が王都から呼び出されるとは。

 自分としても、精一杯の戦果を出した甲斐があったと言うものです」


「そうね、目を見張る戦果だった」


 少佐が目を細くして微笑み、俺はドキッとした。

 ……その仕草に惹かれたとかじゃない、決して。

 ただ、取調官たちのように努力不足だの、評価に値しないだとそういうことを言われるのだと思っていたからだ。


「貴方は19機もの敵機を撃墜した」


「ええ、そして5回撃ち落とされた」


「それは貴方のサバイバル能力の高さと、何度撃墜されても再び舞い戻る不屈の精神を証明しているのではなくて?」


 なんだ? 気味が悪いほど持ち上げてくるじゃないか。

 少佐は俺の困惑を感じ取ったのか、綻んでいた顔を引き締めた。


「本題に入りましょうか。

 国王陛下は戦略の見直しを命じられた。それは共和国本土攻撃よ」


「……! 」


 この戦争は長い。

 だが、両陣営はこれまで「孤高の地」上空とその周辺地域を主戦場としてきた。

 それは二つの陣営が単細胞だからではなく、戦争の急速な拡大を避けるための暗黙の了解だった。

 我が君主はそれを壊そうと言うのだ。


「陛下は孤高の地を奪還できないでいる現状に苛立っておられる。

 本作戦はそれを打破するための一番槍という訳」


「具体的には何を?」


「二週間後、共和国陣営の閣僚たちがとある都市で会談をするという情報を諜報部がキャッチした。

 その会合を空爆する」


「空爆するたって……」


 俺の意図を察したように、少佐は会合地の衛星写真を見せてくれた。

 仮設駐屯地と検問所らしきもの、それから対空砲と地対空ミサイルが屯していた。

 やはり、共和国も馬鹿ではなく、王国の襲撃をかなり警戒しているようだ。

 写真に写っているところだけではなく、この王国から敵の首都まで行くには敵国上空を飛ぶ必要性がある、不可能だ。


「この作戦では、極秘開発中のステルス機が投入される予定よ」


 少佐があっけらかんと述べた事実は、作戦遂行に希望の日差しを与えた。

 レーダーに映りづらいステルス機であれば、敵に気づかれることなく爆撃できるかもしれない。

 だが、ステルス技術は発展途中であり、開発途上の機体なら尚更だ。 

 やはり、リスクが高すぎる。

 俺がこめかみを抑えて悩んでいると、少佐がスッと一枚の紙を差し出した。


 そこに書かれていた数字を見て、俺は息を呑んだ。

 それは作戦成功時の報酬額だった。

 この王都の一等地に立派な家を建てるか、高級車をマイカーにできるほどの金額だった。


「最初、陛下はこの国の正規兵達に声をかけられた。

 でも、誰もが作戦のリスクに怯えて辞退した。


 陛下はお怒りになり、彼らへの当てつけとして、優秀な傭兵に依頼するよう命じた。


 それが貴方」

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