フクロウは眠らないーー虐げられてきた最底辺の傭兵パイロットが、英雄へと登り詰める
@flanked1911
梟の夜
異動命令
しんしんと空を舞う雪が、突如現れた戦闘機の排気熱により、空中で霧散する。
山頂を縫うように飛ぶ白色迷彩柄の機体は前線戦闘機DIG-29、主翼には深紅の六芒星、それは王国所属だという証。
その機体の垂直尾翼には、無機質な13の数字が描かれていた。
王国空軍において、この不吉な数字13が意味するのは外国人傭兵部隊であるということだ。
そのDIG-29の背後に、山中の影から一機の戦闘機が食いついた。
グレーの単色で翼のシンボルは青色の丸、Model-16、共和国同盟の主力機だ。
それは単発エンジンながらも、その軽さで隼のように敵を追い詰める。
そして、その翼端のミサイルのシーカーがDIG-29の排熱を捉え、白い尾を引いて飛翔する。
ミサイルはガラガラ蛇を思わせる動きで、敵の進路を先回りするように飛ぶ。
数秒後には派手な爆発と共に、風圧にとって飛ばされた山頂の雪もはじけ飛び、空が真っ白に染まった。
吹雪の中であったため撃墜したかどうかはっきりしなかったが、その爆発を見てModel-16のパイロットは勝利を確信はずだった。
が、その直後、彼の機体は爆発した。
爆風の中から現れたのは、先程撃墜されたはずの13番のDIG-29だった。
目も離せない生死をかけた応酬をしているのは、彼らだけではなかった
孤高の地の上空では、毎秒のように閃光が瞬く。
今も、また一機機体が黒煙を上げながら、真っ逆さまに落ちていく。
それは13番のDIG-29、先程の機体だった。
◇
「孤高の地」
かつて、そこに住まう人々からそう呼ばれた土地があった。
その呼び名とは裏腹に、険しい山々に四方を囲まれただだっ広い荒野でそれ以外は何もなかった。
1980年ぐらいまでは。
発端は、孤高の地を領土に持つ王国が、十数年ぶりに地表調査を行った時だった。
不毛の地と思われていたその大地の奥底に、豊富な地下資源を発見したのだ。
思わぬ収穫に彼らは喜んだ。
しかし、それに待ったを掛けたのは王国の周辺国である共和国とその他幾つかの国々だった。
彼らは孤高の血は我々の領土だという歴史的証拠を示し、領地の返還を要求したのだ。
根拠のない不当な要求と王国は拒否したが、実際、王国最盛期の百年ほど前に王国は武力で多くの土地を併合していた。
何回かの話し合いが行われ、それらの全てが決裂した。
そして、王国は孤高の地への物流道路の建設を強行。
各国はそれに猛反発。
周辺地域の対立は最高潮に達し、王国と共和国同盟に二勢力に分裂。
国連の仲裁も失敗し、両国は最後の外交手段に出た。
即ち、開戦だった。
この自国の将来を占う戦争に両軍ともあらゆる戦力を投入しようとしたが、それは困難を極めた。
攻め込む共和国はもちろん、自国領の王国ですら山々に囲まれた孤高の地までの碌な道が無かった。
戦車などの地上戦力の投入は難しかった。
だから、この戦争の主役は彼等だった。
「孤高の地」
かつて、そこに住まう人々からそう呼ばれた土地があった。
その呼び名とは裏腹に、険しい山々に四方を囲まれただだっ広い荒野でそれ以外は何もなかった。
1980年ぐらいまでは。
発端は、孤高の地を領土に持つ王国が、十数年ぶりに地表調査を行った時だった。
不毛の地と思われていたその大地の奥底に、豊富な地下資源を発見したのだ。
思わぬ収穫に彼らは喜んだ。
しかし、それに待ったを掛けたのは王国の周辺国である共和国とその他幾つかの国々だった。
彼らは孤高の血は我々の領土だという歴史的証拠を示し、領地の返還を要求したのだ。
根拠のない不当な要求と王国は拒否したが、実際、王国最盛期の百年ほど前に王国は武力で多くの土地を併合していた。
何回かの話し合いが行われ、それらの全てが決裂した。
そして、王国は孤高の地への物流道路の建設を強行。
各国はそれに猛反発。
周辺地域の対立は最高潮に達し、王国と共和国同盟に二勢力に分裂。
国連の仲裁も失敗し、両国は最後の外交手段に出た。
即ち、開戦だった。
この自国の将来を占う戦争に両軍ともあらゆる戦力を投入しようとしたが、それは困難を極めた。
攻め込む共和国はもちろん、自国領の王国ですら山々に囲まれた孤高の地までの碌な道が無かった。
戦車などの地上戦力の投入は難しかった。
だから、この戦争の主役は
◇
王国空軍、東軍区アーカシャ空軍基地取調室にて。
無機質な事務机を挟んで2人の男が対峙している。
1人は腕を組んで鬼のような形相をしている。
それとは対照的にもう1人の男は腕を頭の後ろにやり、飄々とした態度で座っていた。
「クーパー少尉、見事な戦績だな。
19機撃墜とは」
腕を組んだ男、取調官は言っている内容とは裏腹に怒気を含んだ声でそういった。
「どうも」
あいも変わらず、気楽な態度を崩さない男クーパーは穏やかな口調で賛辞に答え、用意されていた茶に手を伸ばす。
しかし、大きな音がしたと思えば、茶が波を立てて揺れた。
震源は取調官の拳だった。
「19機撃墜……加えて5被撃墜だ!
貴官の戦績は評価に値しない! 」
「落ちた数の三倍は落としてるんだから、構わないだろう?」
「どうせ猪のように突っ込んでいるだけだろう!?
それでスコアを稼ぐなど、サルでもできる!
我が王国民の血税で造られた高潔なる戦闘機は消耗品ではないのだ!
小官は、貴官になんらかの軍務違反の疑いを持っている!」
全くご苦労なものだと、ジョン・クーパーは。
……俺は、馬鹿馬鹿しいと鼻を鳴らす。
これが一度目ではない、前々回、撃ち落とされた時もそうだった。
装備品を労る努力を怠っただのなんだの、出世争いに乗り遅れた将兵が息巻いていた。
しかしながら、その時も、おそらく今回も、不起訴という流れになるだろう。
「そもそも、栄ある王国に外国人傭兵部隊などと……!
その黒い瞳は本当に気持ちが悪い!」
平然と差別する取調官の顔をじっくり見る。
なるほど、この男は自身の昇進の為だけではなく、王国人至上主義という大層な理念を持っているようだ。
理念を持たない傭兵の俺とは違う。
多くの王国の正規軍人達は母なる祖国を守る為と胸を張り、味方であるはずの傭兵達を誇りなきものと毛嫌う。
しかし、俺はこの環境を嫌ってはおらず、むしろ好んでいた。
誇りとやらを持っている正義軍人の方々は、どうやっても俺の撃墜数に追いつけない。
奴らの嫉妬と屈辱の混じった目、そして俺自身の実力で生き抜いていると言う実感……それがたまらない。
多少品性がなくても、敵を撃墜さえすれば高収入というのも、社会性の欠けた俺にはあおつらえ向きな仕事だった。
出撃して、大金を稼ぎ、酒に、女に溺れて、たまに撃墜される、スリルと幸福のジェットコースター。
もしも運悪くくたばったとしても、俺はそんなに後悔はないだろう。
取調室の扉がノックされ、取調官が呼び出される。
もう取り調べなんかいいという上からのご命令だろう、と俺は確信した。
……長いな。
どうも雲行きが怪しく、取調官とその上官らしき声が言い争うのが聞こえる。
まさか、俺は罰せられるのか?
やがて、喧騒が止み、取調官が戻ってきた。
その顔は俺が見た中で最も嫉妬と屈辱に満ちていて、重々しく口を開いた。
「……国王陛下が、貴官への勅命を命じられた」
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