第22話 私の心をかき乱さないで下さい

サーラがグリーズ様のエスコートを受け入れてくれたことが嬉しくて、つい鼻歌を歌ってしまう。大切な人たちが幸せになってくれることは、私にとっても嬉しい事なのだ。


私も早く、素敵な殿方を見つけないとね。そんな事を考えていると


「アメリナ」


この声は!


「ルドルフ様、ごきげんよう。私に何か御用でしょうか?」


相変わらずなぜか私に話しかけてくるルドルフ様。正直私に話し掛けないで欲しい。


「いや…その…来月の夜会なのだが、いつもの様に俺にエスコートさせてくれるかい?君の為に、ドレスも準備しているのだよ」


確かにいつもルドルフ様にエスコートしてもらっていた。でも、いつもつまらなさそうにエスコートするルドルフ様。きっと、親に言われていたのだろう。今回もきっと、おば様に私を誘う様に言われたのだわ。


「申し訳ございませんが、ご遠慮させていただきますわ。ルドルフ様、もう無理をなさる必要はございません。確かに両親は大切です。両親の期待に応えたい、悲しませたくはないと思うのも無理はないでしょう。でも…私は気が付いたのです。両親を喜ばせるために、私たちは生きているのではありません。どうかこれからは、お互い自由に生きましょう。それでは失礼いたします」


嫌いな女をエスコートするなんて、苦痛でしかないだろう。私だって、嫌われている人にエスコートされるなんて辛い。正直もう、ルドルフ様には関わりたくはないのだ。


「アメリナ、待って。俺は両親の期待に応えたいだなんて、これっぽっちも思っていない。それよりも、アメリナはもしかして、別の殿方にエスコートしてもらうつもりなのかい?やっぱり君は、グリーズ殿が好きなのかい?だから俺の事は、もうどうでもいいのかい?」


なぜかルドルフ様が、真剣な表情で問いかけて来た。その瞳はどこか泣きそうで、悲しげだ。どうしてあなたがそんな顔をするの?この人は一体、何を言っているの?


「どうしてそこで、グリーズ様が出てくるのですか?とにかく私は、もうあなた様には関わりたくはないのです。あなた様だって、私となんて関わりたくはないでしょう?」


「どうして俺が、アメリナと関わりたくないと思…」


「ルドルフ様、こんな所にいらしたのですね。探しましたわ」


美しい笑みを浮かべて私たちの元にやって来たのは、クレア様だ。


「よかったですね、あなた様の大切な人、クレア様がやってきましたよ。もう私に話し掛けないで下さい。それでは失礼します」


「待ってくれ、俺の話を聞いてくれ!」


後ろでルドルフ様の声が聞こえるが、無視してそのまま走り去った。


人気の少ないところまで来ると、一気に涙が溢れだした。どうして…どうして私を誘うのよ。最愛のクレア様がいらっしゃるのに。どうして私に関わるの?私の事、大嫌いなのでしょう?何があっても結婚したくない程嫌いなのでしょう?


それなのに、どうして私が断ったら、そんな悲しそうな顔をするの?意味が分からない。


どうしてこんなに、私の心をかき乱すの?やっと少しずつ、前を向き始めたのに。お願い、どうかもう、私の心をかき乱さないで。これ以上、傷つきたくない。


「アメリナ嬢、またこんなところで泣いているのかい?」


この声は…


私の元にやって来たのは、何とグリーズ様だ。


「グリーズ様、私は大丈夫ですわ。ちょっと色々と思う事があって…それに私と2人でいると、サーラが誤解をします。ですから、どうか私の事は気にしないで下さい」


サーラは私達が2人で会っている事を気にしていたのだ。


「確かにサーラ嬢も大事だけれど、僕は友達が泣いているのを放っておけるほど、薄情な男じゃないよ。はい、ハンカチ」


「ありがとうございます。でも、本当にもう大丈夫ですわ」


「もしかして、ルドルフ殿の事で悩んでいるのかい?アメリナ嬢、僕はどうしても、彼が君を嫌っているとは思えないのだけれど。本当にルドルフ殿が、君を嫌いと言ったのかい?」


「ええ…はっきりと聞きましたわ。私とは絶対に結婚したくはないと…」


「僕はその言葉、信じられないな…それに君自身も、まだルドルフ殿の事を吹っ切れていないのだろう?一度腹を割って話した方がいいのではないのかい?」


「今更何を話すというのですか?とにかくもう私は、彼には関わりたくはないのです。私はもう大丈夫ですので、これで失礼しますわ。グリーズ様、サーラの事を大切にしてあげて下さい」


そう伝え、グリーズ様の元を去った。


グリーズ様は私達の事を知らないから、そう言えるのよ。私はこの耳ではっきりと聞いたわ。とにかく私は、これ以上心を乱されたくはない。もうルドルフ様に関わるのは止めよう。


そう心に誓ったのだった。



※次回、ルドルフ視点です。

よろしくお願いします。

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