第18話 今の俺に出来る事は…~ルドルフ視点~

「坊ちゃま、お待たせいたしました。あの…アメリナ様と何かあったのですか?」


泣いている俺に話しかける執事。


「アメリナは実はクールな男は嫌いな様だ。愛情表現をしっかりしてくれて、いつも自分に寄り添ってくれる人間が好きらしい…それって、昔の俺だよな?」


「そうですね、昔の坊ちゃまは、うざいくらいにアメリナ様に愛情をぶつけておりました。アメリナ様も幸せそうでしたね。アメリナ様にしてみたらきっと、今まで全力で愛してくれていたのに、急に冷たくされて相当ショックだったでしょう…お可哀そうに」


遠い目で窓の外を見上げる執事。こいつ、仮にも主でもある俺が傷ついていると言うのに、傷をえぐるような事をわざわざ言わなくてもいいだろう。


でも、正論すぎて言い返す事なんて出来ない。


「そもそも、一体どこからアメリナ様がクールな男性をお好きだという誤情報を聞きつけて来たのですか?坊ちゃまはアメリナ様の何を見ていたのですか?百歩譲って本当にアメリナ様がクールな男性が好きだったとしても、ご自分の性格を偽ってクールを演じている坊ちゃまに、魅力を感じるでしょうか?」


確かに偽りの自分でアメリナの理想通りの男になったところで、アメリナは嬉しくないかもしれない…


「とにかく、坊ちゃまはやることなすことが間違っていたのです。本当になぜもっと早く私に相談してくださらなかったのですか?こんな取り返しのつかない状況になってから報告されても。第一、後半年もすれば、アメリナ様は殿方と婚約できる状況になるのですよ。今の坊ちゃまとは、絶対に婚約を結ばないでしょうね」


そこまではっきり言わなくてもいいだろう。でも、きっとアメリナは、今の俺とは絶対に婚約を結ばないだろう。アメリナはきっと、グリーズ殿が好きなんだ。グリーズ殿に見せる笑顔、そうに決まっている。


俺はもう、アメリナとは結婚できないのか?


「アメリナと結婚できないなら、俺はもう一生独身で構わない。侯爵家は、誰か別の者が継いでくれ…俺はアメリナが他の令息と幸せになる姿なんて、見ていたくない…領地でひっそりと暮らすよ…」


俺にとってアメリナが全て。彼女を失うくらいなら、生きている意味なんて全くない。侯爵になんてなりたくはない。1人ひっそりと余生を送りたい。


「坊ちゃま、しっかりしてください。あなた様はダーウィズ侯爵家の嫡男なのですよ。そもそも、まだ14歳ではありませんか?あなた様は非常に優秀で、貴族世界でも一目置かれているくらいなのです。それなのに、アメリナ様の事になると、本当にダメ人間になってしまうのですから…」


「俺は優秀な訳ではないよ。アメリナが嫁いできてくれた時に、少しでも快適に暮らせるようにと、父上と一緒に領地経営に力を入れて来ただけだ。でも、アメリナと結婚できないなら…」


アメリナが嫁いできた時に、少しでも裕福な暮らしが出来る様に、今まで以上に領地経営に力を入れて来た。時に父上と意見がぶつかる事もあったが、それでも何度も話し合い、今では家の領地はこの国で3本の指に入るほど、豊かな地になったのだ。


それもこれも、全もアメリナの為だったのに…


また涙が溢れ出す。


「いつまでもビービー泣いていないでください。そもそも、アメリナ様は昔の坊ちゃまが好きだったのですよね。それならば、バカみたいにクールな男を演じるのをおやめになったらよろしいのではないですか?今まで通りの坊ちゃまに戻るのです!」


「今まで通りの、俺に?」


「そうです。もう無駄な演技はお止めください!」


確かにこれ以上無駄な演技を続ける必要はもうないな。そもそも、アメリナは昔の俺、つまり素の俺が好きだったんだ。


それなら、素の俺に戻ればまた、アメリナの心を取り戻せるかもしれない。


そうだ、どうしてそんな簡単な事に気が付かなかったのだろう。アメリナが婚約を結べるようになるのは、まだ半年後。という事は、まだ間に合うはずだ。


今までの経緯をしっかり話して謝罪し、アメリナに俺の気持ちを伝えよう。


よし、そうと決まれば、いつまでも落ち込んではいられない。


「悪いが今すぐ学院に戻ってくれるかい?すぐにアメリナと話をするから」


「かしこまりました。本当に世話が焼けますね」


はぁ~っとため息をついている。確かに俺は大バカ者だ。俺はいつの間にか、アメリナ事を全く見られていなかったのだ。


これからはきちんとアメリナを見ていこう。大丈夫だ、まだ間に合うはずだ。


学院に戻ると、そのまま馬車を飛び降り、アメリナの元へと急ぐ。まだお昼休みのはずだ。皆が食事をしていた場所に戻るが、アメリナの姿はない。


もしかして教室に戻ってしまったのかな?


辺りをウロウロと歩きながらアメリナを探す。すると…


アメリナとグリーズ殿が寄り添い、楽しそうに話しをしている姿が目に入った。2人が微笑み合い、それはそれは幸せそうに話をしていたのだ。

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