第13話 クレア様には敵いません

ルドルフ様を諦めてから半月、サーラはもちろんの事、グリーズ様を含めた殿方たちにも支えられ、何とか心穏やかに過ごしている。


ただ、やはりルドルフ様とクレア様の姿を見ると、まだ胸が苦しいが、こればかりは仕方がない事。いずれ時間が解決してくれる、そう思っている。


ちなみにまだぎこちないサーラとグリーズ様。こちらはまだ時間がかかりそうだが、グリーズ様はサーラと話が出来て、とても嬉しそうだ。やっぱり好きな女性と話せるって、嬉しいわよね。いつも真顔で、私が話しかけても眉一つ動かさなかったルドルフ様。それだけ私が嫌われていたという事だろう。


昔はいつも笑顔で私に接してくれていたのにな…あの頃のルドルフ様が大好きだった。きっと私が、ルドルフ様をあんなにも無表情な人間にしてしまったのだろう。私が離れればいつか、昔の明るいルドルフ様に戻ってくれるかもしれない。


そう思っている。


そして今日もサーラやグリーズ様達殿方と一緒に、昼食をとるため、中庭へと向かおうとした時だった。


「アメリナ様、少し宜しいでしょうか?」


穏やかな表情で話しかけてきたのは、何とクレア様だ。彼女が一体私に何の用があるのだろう。もしかして、今まで散々ルドルフ様に付きまとって迷惑をかけて来たから、苦言を呈しに来たのかしら?


「ええ、大丈夫ですわ」


それでも断る訳にはいかない。彼女は侯爵令嬢で、我が家より爵位が上なのだ。それにもし私のせいで、彼女自身にも嫌な思いをさせてしまったのなら、しっかり謝りたい。


「ありがとうございます。それでは、参りましょう」


サーラ達に断りを入れ、いつも通り、安定の笑顔を見せるクレア様に付いていく。しばらく進むと、人気のない場所へとやって来た。


「急にこんな場所に呼び出してごめんなさい。アメリナ様、最近ルドルフ様の元に行っていない様ですが、何かございましたか?」


優しい微笑で私に問いかけてくるクレア様。この人、本当に優しい方なのね。恋敵…にもなっていない様な私の事まで気にかけて下さるだなんて。


「実はルドルフ様は、私の事が大嫌いな様で。それで、これ以上彼に迷惑をかけてはいけないと思い、身を引く事にしたのです。それに何よりも、ルドルフ様とクレア様の姿を見ていたら、これ以上私が邪魔をする訳にはいかないと考えたのです」


美男美女で本当にお似合いの2人。これ以上この2人の邪魔をしたくはないのだ。


「そうだったのですね。ルドルフ様は、アメリナ様の事を…そうとは知らず、変な事を聞いてしまってごめんなさい。アメリナ様が身を引いて下さるのでしたら、思いっきりルドルフ様にアプローチできますわ。アメリナ様、身を引くと言った事、絶対に忘れないで下さいね。絶対に!」


なぜか急に迫って来たクレア様。いつも通りの笑顔なのだが、なぜか迫力がすごい。


「え…ええ。というよりも、ルドルフ様は私とは絶対に結婚しないと意気込んでおりましたので、たとえ私が今後ルドルフ様に絡んだところで、迷惑がられるだけですし。もう私は、ルドルフ様の事は忘れて、新しい殿方と素敵な未来を歩めたらと考えておりますの。ただ、まだそういった殿方はいらっしゃいませんが…」


「そうなのですね。アメリナ様ならきっと、素敵な殿方が見つかりますわ。今日はアメリナ様とお話しが出来てよかったです。私、絶対にルドルフ様と結婚したいと考えておりますの。ぜひ応援してくださいね」


そう言うと、クレア様は笑顔でその場を去ってしまった。なぜだろう…ものすごく疲れたのだが。ただ1つわかったとこがある、クレア様はルドルフ様の事が大好きという事だ。まあ、美しくて上品なクレア様ならきっと、ルドルフ様も受け入れるだろう。


そう思ったら、胸がずきりと痛んだ。私、まだ心のどこかでルドルフ様の事を思っているのね。いくら思ったところで、クレア様には到底かなわない。令嬢としての気品も身分も、何をとっても彼女の方が上なのだから…


「アメリナ、大丈夫だった?あなた、泣いているじゃない。もしかしてルドルフ様の事で、クレア様に何か言われたの?」


私の元に心配そうな顔でやって来たのは、サーラだ。きっと心配で様子を見に来てくれたのだろう。


私、泣いている?そっと頬に触れる。


「私、どうして泣いているのかしら?クレア様からは特にひどい事を言われたわけではないのよ。ただ…クレア様はやはり、ルドルフ様の事が大好きな様よ。もう私には、関係のない話だけれどね…」


「そうだったの…アメリナ、あなたはずっとルドルフ様の事が、大好きだったのですもの。必死に忘れようとしても、そう簡単に忘れられる訳がないわ」


そう言ってサーラが抱きしめてくれた。サーラの言う通り、まだ私はルドルフ様の事を忘れきれていない。それでも私には、彼を諦めるという選択肢しか残っていないのだ。


今は辛いかもしれないが、いつかきっと、この傷が癒える日来ると信じたい。ただ、それまでは…

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