第11話 どうして俺を避けるんだ…~ルドルフ視点~

翌日もやはりアメリナは学院には来ていなかった。アメリナがいない学院なんて、本当につまらない。その上、あの女がいつものように話しかけてくるのだ。


正直あんな女と話をするのも面倒で、無視しておいた。


授業が終わると、その足で花屋に向かった。昨日は手ぶらで伯爵家に向かったが、今日は少しでもアメリナに元気になって欲しくて、花を贈る事にしたのだ。アメリナに喜んで欲しくて、アメリナの好きな花を中心に立派な花束を準備した。


花を1つ1つ選んでいたせいで、随分時間がかかってしまったが、それでもアメリナの喜ぶ顔が見られたら俺は嬉しい。そんな思いで、アメリナの家へと急ぐ。屋敷に着くと、すぐにメイドが客間へと通してくれた。


どうやら既に熱は下がっているとの事で、アメリナの専属メイドがアメリナを呼びに行ったのだが…


「ルドルフ様、申し訳ございません。お嬢様はまた体調が悪くなってしまった様で…それからその…“私はもう大丈夫ですので、来ていただかなくて結構です”との事でして…」


「それは一体どういう意味だい?アメリナには会えないと言う事かな?」


極力冷静にメイドに話しかける。


「はい、申し訳ございません」


申し訳なさそうに頭を下げるメイド。それならせめて、アメリナの顔だけでも見たい!そう言いたいのをぐっと堪えた。


「わかったよ、それじゃあこの花束を、アメリナに渡して欲しい。それじゃあ、お大事に」


そう伝え、伯爵家を後にした。本当はアメリナの様子を見たかった。でも、あそこで引き下がるしか、俺には方法はなかった。


アメリナ…

君の身に一体何が起こったのだい?まさかアメリナに会う事を拒まれるだなんて…


その日はショックで、食事も喉を通らなかった。翌日と翌々日は、貴族学院が休みだ。正直アメリナの事が心配すぎて、何もする気にはならない。


何度もアメリナの家に足を運ぼうかと思ったが、メイドの言っていた“もう来ないで下さい”の言葉がどうしても引っかかり、アメリナの家に行くことが出来なかった。


辛くて長い休みが終わり、やっと貴族学院に行く日を迎えた。俺は一刻も早くアメリナに会いたくて、いつもより1時間も早く、学院に着いてしまった。大丈夫だ、俺の顔を見たら、いつものように嬉しそうにアメリナは俺の元に飛んできてくれるはずだ。だってアメリナは、俺の事が大好きなのだから。


俺は今まで、アメリナの理想とする令息をずっと演じてきたのだ。だから大丈夫、そう自分に言い聞かせた。どれくらい待っただろう。続々と貴族たちが登院してくる。途中、あの女が登院してきた時は、急いで姿を隠した。あの女に見つかると面倒だからな。


その時だった。アメリナの家の馬車が、やって来たのだ。そして中から、アメリナが降りて来た。すると俺に気が付いたのか目があった。ただ、なぜかスッと目をそらされたのだ。なぜだ?どうして目をそらされた?


一気に不安が襲い、急いでアメリナの元に向かおうとしたのだが。絶妙なタイミングで、あの女に邪魔されてしまった。あの女、どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!


「クレア嬢、悪いが僕は君にはこれっぽっちも興味がないどころか、迷惑している。どうかもう、僕に絡まないでくれ」


「そんな…私はただ、ルドルフ様の事をお慕いしているだけですのに」


「たとえ君が僕に興味があったとしても、僕は君に興味を抱く事は絶対にない。とにかくもう僕に構わないでくれ」


そう伝え、急いでアメリナの元に向かおうとしたのだが…いつの間にかどこかに行ってしまった様で、姿がなかった。きっと教室に向かったのだろう。そう思って教室に向かったのだが、アメリナの姿がない。一体どこに行ってしまったのだろう。


急いで探しに行こうとしたのだが…


「授業を始めます。ダーウィズ殿、席に着いて下さい」


運悪く先生が来てしまったのだ。アメリナの事が気になって仕方がないが、仕方なく席に着く。正直アメリナの事が気になりすぎて、授業どころではなかった。とにかく授業が終わったら、すぐにアメリナを探しに行こう。そう思っていたのだが…


授業が終わると同時に、何とグリーズ殿と楽しそうに話しをしながら教室に入って来るアメリナの姿が。一体どういう事だ?もしかしてグリーズ殿と、アメリナが?


あまりのショックに、その場に立ち尽くす。そんなアメリナの元に、親友でもあるサーラ嬢が駆け寄った。どうやら体調が悪くなったアメリナを、グリーズ殿が介抱していたらしい。


嬉しそうにグリーズ殿を見つめるアメリナ。


まさか俺が少し目を話した隙に、他の男と2人きりになっていただなんて。その上、あんなにも可愛い笑顔を、他の男に見せているだなんて…ショックで気を失いそうになるのを、必死に堪えた。


あの笑顔…いつも俺に向けてくれる笑顔そのものじゃないか…


どうして…どうして俺以外の男に、そんな可愛い笑顔を向けているのだい?アメリナは俺の事が大好きなはずだろう?俺は君の理想に少しでも近づきたくて、今まで頑張って来たのに…どうして…


とにかく、このままあの男にアメリナを取られる訳にはいかない。そんな思いで、極力クールさを残しつつ、アメリナに話しかけた。でも…なぜか俺の顔を見て、困惑顔のアメリナ。こんなアメリナの顔、初めて見た。


どうして俺にそんな顔を向けるのだい?いつもの様な笑顔を見せて欲しい!さらにサーラ嬢に睨みつけられたうえ、そのままアメリナを連れて、サーラ嬢が教室から出ていってしまったのだった。

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