第7話 グリーズ様はサーラが好きな様です

「グリーズ様、もしかしてサーラの事を…」


私が問いかけると、一気に顔を赤くするグリーズ様。そうか、そうなのね。この人、サーラの事が好きなのね。


サーラはいつも私の事を考えてくれる、とても優しい親友。ただ、あまり殿方には興味がない様で、今まで浮いた話を聞く事はなかった。グリーズ様はとても穏やかで、心優しい方だ。こんな素敵な殿方が、サーラの傍にいてくれたら…


「あの、サーラ嬢に言わないでくれ。僕の一方的な片思いなんだ。だから、その…」


「もちろん言うつもりはありませんわ。ただ、どうか私にあなた様の恋を応援させていただけないでしょうか?サーラは今、気になる殿方はいない様です。あなた様はとてもお優しいくて素敵な方なので、安心してサーラを任せられますわ」


私はルドルフ様の恋に破れてしまったが、せめて親友と親切にしてくれた殿方の恋を応援したい。そう強く思ったのだ。


「ありがとう、アメリナ嬢。気持ちは嬉しいけれど、僕はサーラ嬢の気持ちも大切にしたいんだよ。だから…その…」


「そんな事は分かっておりますわ。私もサーラには幸せになって欲しいのです。そうですわ、今日のお昼、一緒に昼食を頂きましょう。まずは関わり合いを持って行くことが大切かと」


「それは本当かい?実はサーラ嬢と全く話す機会がなくて…そうしてもらえると有難いよ。でも君は、ルドルフ殿のところに行かなくていいのかい?いつもルドルフ殿の元に行っていたいただろう?」


ルドルフ様か…


「私、ルドルフ様に心底嫌われているのです。“あんなうるさい女と、絶対に結婚なんてしない”と言われているくらいなので。だから、気にしないで下さい…」


「そうだったのだね。ごめん、嫌な事を聞いて。それにしてもルドルフ殿は、見る目がないな。僕は君の太陽の様な明るい声と笑顔、好きだよ。僕の友人たちも、アメリナ嬢の声を聞くと、元気になると言っていたし」


そう言ってグリーズ様が微笑んでくれた。たとえお世辞だとしても、私の笑顔と元気な声が好きだと言ってくれる人がいるだけで、なんだか心の奥が温かいものに包まれる様な感覚になる。


「ありがとうございます、グリーズ様。そう言って頂けると、なんだか元気が出て来ましたわ」


「そうそう、その笑顔。とても素敵だよ。君はやっぱり笑っていないとね。さあ、そろそろ教室に戻るか」


「ええ、そうですわね。でも、私とグリーズ様が一緒に戻ったら、皆に変な風に見られないかしら?」


「周りがどう思おうと関係ないよ。ただ…サーラ嬢に誤解されるのは、ちょっと困るな…」


「サーラの件は、私がしっかり事情を話すので、大丈夫ですわ」


「ありがとう、アメリナ嬢。それじゃあ、戻ろうか」


「はい」


グリーズ様のお陰で、今まで辛くて悲しかった感情も、一気に落ち着いた。なんだか前を向けそうな気がして来た。それに私には、グリーズ様とサーラの恋のキューピッド役もやらないといけない。


落ちこんでいる暇はないわ。


2人で話をしながら教室に入っていく。すると


「アメリナ、よかった。今日は来ると言っていたのに、来ないから心配していたのよ」


血相を変えて私の元にやって来たのは、サーラだ。


「サーラ、心配をかけてごめんね。学院に来た後、ちょっと体調が悪くなって校舎裏で休んでいたの。そうしたらたまたま通りかかったグリーズ様が、心配して傍にいて下さって。そのお陰で、すっかり元気になったわ」


隣にいたグリーズ様を、さりげなくアピールする。


「まあ、そうだったのね。グリーズ様、アメリナを助けていただき、本当にありがとうございました」


「いや…僕はその…当たり前の事をしただけだから、気にしないでくれ」


大好きなサーラに急に話しかけられたグリーズ様は、急にしどろもどろになっていた。この人、好きな令嬢の前ではうまく自分を出せないタイプなのね。これは困ったわね…


「アメリナ、体調があまり優れないなら、無理をしてはダメだわ。今すぐ医務室に行きましょう」


私を連れて教室の外に出たサーラ。


「サーラ、待って。体調が悪い訳ではないの。実は…」


私はサーラに今日の出来事を話した。


「そうだたったの。そういえば最近、ルドルフ様とクレア様、仲睦まじい…じゃなくて、よくお話をされているものね。可哀そうに、そんな姿を目撃したら、泣きたくもなるわ」


そう言ってサーラが抱きしめてくれた。


「ありがとう、サーラ。でも、グリーズ様のお陰で、少し気持ちも落ち着いたの。だから、もう大丈夫よ。私、ルドルフ様よりも素敵な殿方を絶対に見つけるわ。サーラも、誰か気になる殿方とかいないの?」


それとなくサーラに話しを振った。


「私は特にいないわ。私、あまり殿方とお話ししたことがないでしょう。というより、なんだか殿方が苦手で。やっぱりアメリナと一緒にいる方が落ち着くわ」


「もう、サーラも伯爵令嬢なのだから、そんな事を言っていたらダメよ。そうだわ、一緒に素敵な殿方を見つけましょう。私、サーラと一緒なら、素敵な殿方が見つかりそうな気がするの」


「そうね…アメリナも前を向いてくれているのですもの。私も頑張るわ」


そう言って笑顔を見せてくれた。こうやって見ると、サーラって可愛い顔をしているわね。グリーズ様が惚れるのも、無理はない。


サーラがグリーズ様を選ぶかは正直わからないが、私に出来る事は何でもしていかないと!

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