バレた

 私はこの紙を持って、ギルド長の部屋に大急ぎで向かった。

「失礼します」ノックをして入ったのだが、誰もいない。ギルド長ですら。

 どこに行ったのだろう。緊急の用事なのにー。

「おやおや、キリサさんではないですか」

 通って来た方向からギルド長の声がする。

「私の部屋に何か用事でも?」

「ギルド長にある物を見てほしくて、ここに来ました」

「ある物?」

 彼は横に首を傾げ、何を言っているのだと言いたそうな眼差しの光が差し込んでくる。

 期待されてもいいものは出てこないけどな……

 俺はあの紙を見せた。彼は驚くはずが、興味津々に見つめていた。

「これは!?」

「何か問題でも?」

「……いや……」

 何か思うことがあるのかもしれない。目の奥がぐるぐるしているように見えた。

「いますぐ、この人を呼んでくれ」

「少々お待ちください」

 部屋から飛び出した私は、彼の元へ急いで戻った。


 それから数分後のこと。


 まだかな、まだかな。心の奥からソワソワしてきた。何かあったのだろうかと不安になってきたのだ。

「はぁはぁ……お待ちして……おりました。今お時間はありますか?」

 彼女は息切れを起こしていた。

 階段ダッシュをしたのだろう。

「ええ」

 この質問には、先ほどの時間が関係しているのだろうか。

「でしたら、私に着いてきてください」

 俺は一言、チャマクにこう言った。

「迎えにくる」


 俺はチャマクを置いて、彼女と共に2階に行った。

 1階に比べ、部屋が少ない。

 後で知ったことなのだが、ギルド長の専用部屋、更衣室が3部屋があったのだ。


 1番広い部屋に案内され、中に入った。

 この後のことは、緊張しすぎて覚えていない。

 後で聞いた話だが、ギルド長はあの紙を見て、勇者様なのだと気がついたらしい。


「はあぁぁ」思わず、ため息をついてしまう。

「どうかしましたか、勇者様?」

「いや、なんでもない……」

 受付嬢には、勇者様だと黙ってもらっている。

 安心感はあるが、もしものことを考えると……ぞっとする。

「……そうですか……何かあれば言ってくださいね!」

「では、失礼します」

 個室を出て、受付に戻っていった。

 さて、このあとは何をしようかな?と思っていたときに、下が騒がしく感じた。

「おーい、青葱あおぎ殿はいるかーーー!!」

 この声、どこかで聞いたことがある。どこで聞いたのだろう?

 頭を一周させてみたが、思いつかない。

「コツコツコツ」ヒールの音とともに、急いで誰かが上がってくる。

 だんだん、その音は近づいている。

「コツ……コツ……コツ……」

 ホラー映画でも見ているかのような緊張感が存在する。

 その音の主は、受付嬢だった。

「ハァハァ……勇者様……あなたを……呼んでいる人が……いるようです……」

 受付嬢は呼吸を整えるために、個室で休憩をした。

 一方、俺は下に急いで降りていき、目の前に知っている男性がいた。

 なんと、彼はフェルスだったのだ。

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