旅と狼

 時は昼過ぎだろうか。門を行き来する者らが多かったからだ。

 まあいい、誰も居ない場所を探すとするか。

 そんな場所を探すこと数時間。森付近まで辿り着いた俺はテントみたいな過ごせる物を敷く。

「疲れたあー」背伸びするように腕を空に伸ばし、堕落する。

 今日は何もせずに休むことにした。


 一方、あの人たちは……。

 時間は青葱静あおぎせいが冒険に出る前の頃に遡る。


「陛下、すみません!!青葱殿は来なかったですね」

 フェルスは、土下座でも行うのかと思うぐらい声を張って、片膝を突いた。

「構わない。そうか……」困った顔を見せる。

 解決策を考え込んでいるようだ。

 この場には、門番・フェルスと国王・フォス・オプクロが謁見の間に居る状況だ。

「陛下、どうしますか?処罰とか処分とか」

「うぬ……我々が勇者として召喚したからな……」

 王様はまだ、悩んでいる様子を見せる。

「青葱は、今どこにいるのか分かるか?」

 首を傾げて問いかけてきた。

「分かりません」

 正直にそう言った。

 王様に嘘をつくなんて、神に嘘をついているのと一緒だ。

「ならば、汝に命ずる!!青葱静あおぎせいを見つけ出し、ここに強制的に来させろ!!」

「御意。陛下」

 何らかの感情がこもった命令に、片膝を突いて返事をした。

 その場を去って、見つけに出かける。


 果たして、フェルスは青葱静を見つけることは、出来るのか!?


 一方、青葱静は、というと。

「ぐうううう〜」と眠りについた頃であった。


「……こ、ここは?……」

 まだ、目ぼけている青葱。

 今日こそは、まものを倒そう!あと、この魔法もどうにかしないといけないな……

「ガルルルルル……」

 何だ?外から犬種特有の威嚇声が聞こえる。

 扉のチャックを開けて、外を確認してみる。

 そこには、黒と白の毛並みの色合いをした狼らしき動物がいる。

「……ガル……ガルル……ガルルル……」

 俺のことを怯えているようだ。だが、普通に怯えている訳ではなさそうな感じだ。

「ほれ。これを食って!」

 屋台で売っていたスナック菓子みたいな食べ物を、狼らしき動物の目の前に置いた。

 噛まれても嫌だから、それを置いて後ろに下がった。

 猛獣が骨付き肉をかぶりつくように食べている。時々、チラチラと俺のことを見ている。

 相手は人ではないが、恥ずかしいくて目を逸らしてしまう。

 スナック菓子みたいな食べ物を食べる狼みたいな動物と主人公・青葱静あおぎせい

 他人から見ると、動物に餌をあげている感じ。

「ガルルルルル……ガルルルルルルルルル」

 それを寄越せと言わんばかりに先ほどよりも唸っている。

「わかった、わかった……まあまあ落ち着け」

 平常心でまた、餌をあげた。

 まだ怖さは残っている。だが、食っている姿を見ていると癒される。

 それを食い終わったのだろう。尻尾を振って、そのまま走ってこっちにやって来た。

「何だい?」返事が通じる訳でもないのに喋りかけた。

「何だとは何だ」狼みたいな動物は喋った。

 えっ!?動物が喋った!?人や獣人、亜人ならまだ、分かるが……。

「我こそはお前らを喰らいつく魔聖獣ませいじゅう・チェマク」

「チェマク?……あと、魔聖獣ってのは何だ?」

 チェマクと名乗る狼みたいな動物に聞いてみたが……その答えが不思議すぎて訳がわからない。

魔聖獣ませいじゅうを知らないのか……汝は勇者か?勇者なら知らないで当然だ。まあ仕方ない教えてやろう。まものは分かるか?」

「分かると言えば分かるが……例えば、スライムとかゴブリンのことか?」

「そうだ。それらがまもののことだ。だが、この国にはまものは2種類存在している。その1つ目は魔獣。この種類の獣は悪魔が作ったとされる生き物のことだ。一方、2つ目は聖獣。逆に神が作ったとされる生き物。そして、我々、魔聖獣こそが、悪魔と神が一緒になって作ったとされる」

 長話をするチェマク。

「なるほど……で、チェマクはなぜ俺に話した?」不思議に思い、問う。

「我は汝と一緒にいたいのだ」

 爽やかにそう答えた。獣と人間の対立は存在するのだろうか。

「一緒にいたい?理由にもなってないのだが」

 まだ、疑問は消えない。なにしろ、魔聖獣と共にいるからだ。我は1人で訓練をやりにここに来たのに、なぜこんなことになったのだ!!

「一緒にいたいってことは友達ってやつだろ?……全部が全部話したいってことではないのは知っている。だが、我は一緒にいたいから汝には説明をしたからだ……」

 落ち込みながら、理由を言った。

「本当に一緒いたい理由ってのはなんだ?」

 そう。この問題があったのだ。

「汝は優しいからなのだ。我は人間嫌いだ。だが、汝のことだけは嫌いにならなかった。この気持ちは一体なんだろうか」

 ふーん。まあ別にいっか……

「その顔は何だ?嫌そうではないか……」

 落ち込んでいる声。そして、どこからか寂しさを感じる。

「嫌じゃねえよ!!」親に反抗している気分になる。

「そうか。よろしくな!汝!」尻尾を振りながら言っている。

 嬉しいのだろう。やはり、癒されるなー犬ってやつは。

「あと、汝ってのは何だ!俺のことか?」

「そうだが?それがどうした?」首を傾げる。

「俺は青葱静あおぎせいだ!だから、汝と呼ぶな!」

「ほう。静と言うのか、なるほどなるほど。なら、静、共に行こうぞ!」

「ああ……」あまりこんな雰囲気は苦手だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る