人面犬

一 一大ブームとなった都市伝説

　〝人面犬〟という都市伝説をご存知だろうか？

　身体は犬で、顔だけがオッサンだという妖怪？　いや、魔物？　UMA？　……ま、とにかくそういう奇妙な生物だ。

　〝都市伝説〟という言葉もまだ存在しない頃、1989〜90年にかけて広まったウワサの一種で、当時は中高生を中心に、メディアにも取り上げられて大流行していた。

　一説に轢き殺された犬と飼い主の霊が化けたものだとか、環境汚染により生まれたミュータントだとか、はたまた人工的に造られた存在で、遺伝子操作により生み出された生物兵器だったり、中には犬と人間の顔を換えたもので、どこかに人面犬と顔を交換した〝犬面人〟がいるなんて話まである。

　また、一方では後年になって、某ファッション雑誌の編集者自らが意図的に広めた作り話だと証言していたり、ラジオで語った冗談が広まったと主張する某有名俳優、某大学の都市伝説サークルが、噂の伝播する状況を観察するために流した嘘だと語る放送作家なんかもいたりなんかする。

　だが、この〝人面犬〟。すでに江戸時代から似たような話があったらしく、近年に作られた単なる嘘とするには少々疑問も残る……。

　それに、じつは俺自身もこのウワサが流行するよりももっと前の時期に、それ（・・）と思われるものを目撃していたりするのだ。