ゲッペタン

羽弦トリス

第1話トンちゃん、居酒屋で

今日は居酒屋で、独演会。

稲本たかお(44)は、人形を持ち腹話術が生業だ。

会場には、若いカップルからお年寄りまで年齢層は広い。

「こんばんは〜。私は稲本です。私の相棒のトンちゃん、お客様に挨拶して」

『うん。ガキからジジイ、ババアまでよくこんな場末の居酒屋で飲んでんな!』

「ちょ、ちょっと、トンちゃんそれは言い過ぎだよ!」

『うるせぇ、事実じゃねえか!』

「……あ、さてはトンちゃん、一杯引っ掛けたな?」

『シラフで出来るか!こんなん。誰かお酒を飲ませてくれよ!』


稲本は客席の若い女性に言った。

「すいません、トンちゃんにお酒をもらえませんか?」

客席は拍手して、女性がグラスに、ビールを注いだ。

稲本はそれを飲んだ。


『オジサン、ちょっと酔ってきたよ!』

「まだ、ビール一杯目じゃないか!」

『その前に、いいちこ飲んだんだよ。誰か背中擦ってよ!』

「じゃ、オジサンが擦ってあげよう」

『いいや、女の子がいい』


客席から、1人の女性がトンちゃんの背中を擦った。

『お、お姉さんありがとう。……段々、硬くなって来たよ!』

「トンちゃん、皆んなドン引きなんだけど」

『知るか!そんなもん!』


オジサンとトンちゃんは舞台から下ろされた。

オジサンは、茶封筒を渡された。

中身は5万円入っていた。

だが、二度とこの店に来ない様に店長にオジサンは言われていた。

オジサンは帰りに、居酒屋で鍛高譚たんたかたんを飲んだ。

トンちゃんはバッグの中で眠っていた。


こんな、腹話術師がいたって良いじゃないか?

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