名前のつかない二人の関係
十矢
第1話 夕暮れ
学校の休みの日に、電話で呼びだされた。
「夕方くらいでいいから、話せないかな?」
「電話のほうがいいなら、いま聞けるけど?」
「いや、直接のほうがいいよ。長くなるし。」
みゆはそう言った。
夕暮れどきの学校が休みの秋の日。
着くと、当然学校はしまっているが、みゆはしまった門のところで待っていた。
「おはよ。」
「もう夕暮れだよ、みゆ。」
「いいよ、今日初だもん。」
「まぁね。」
それから駅までの道を歩いていく。
「それで、どんな話しなの?」
「大した話しでないよ。」
「呼びだしといて、言うセリフではないよ。」
「ホントに大した話しでないよ。
ただ家にいたくないだけ。」
「 そっか。」
四津夏は考えてみる。
本当に大した理由はないのかもしれない。
けど、話しはいつも真剣だ。
部活が一緒なみゆは、なんとなく周りからは、少しふざけて見えているのか、真面目に話さないほうがいいよ、と助言をくれるひともいる。
それはそれで親切だけど、みゆは、もっときっと真剣だ。
それは、この半年ずっと話しを聴いているからわかる。
「それで?」
「家のひととケンカしたよ。進路のこととか。」
「そっか。」
「ねぇ、何でひとって働くのかなぁ。よっつんはどう思う?」
「とりあえず大学とかはいけないの。」
「成績もあるけど、いくとしたら専門だよ。そして、早くに就職したい。」
「そうかぁ。」
「でも専門はお金かかるしなぁ。」
「うん。」
「それで、就職も視野にいれなさい、って、ここの高卒じゃ、どこがいいのか、わかんなくて、混乱してきたよ。いっそ中退しようかなぁ。」
「そしたら、さらに進路の幅狭くなるよ。」
「そうだよね。」
駅までの道を二人で歩きながら、そんなことを話す。
このみゆは、言うことは、奇抜にみえる。
けど、いつも真剣だ。
そして、それをわかってるのは、学校内でもひとりか二人くらいだろう。
いっそのことみゆと付き合うほうがいいのかもしれない。
そうすれば、彼だから、なんでも話してよ、とか、彼なんだから、一緒にいよ、とか、もっと建前ができるのだろうか。
でも、二年生の出逢い始めで声をかけられて、その第一声は、別に好みじゃないから、だった。
学校近くの無人駅につき、またそこで立ち話しをする。
「飲みものでも買う?」
「そうだね。」
自販機で飲みものを買う。
二人で、一つの飲みものを分けあいながら
「これじゃ、まるで恋人にみえない?」
と笑いながら、みゆは言った。
「ふふっ。ウケる。」
ウケるくらいなら、呼びださないでほしいと四津夏は思う。
でも、機嫌は治ったみたいで、よかった。
そこは素直にそう思う。
「部活はどう? 慣れた?」
「いや、慣れないなぁ。
女子同士ってなんかムリなんだよね。」
「 ムリっていうのはなに?」
「男子のほうが話せるもん、わたし。
なんか女子と仲良しとかできない。」
「ふ〜ん。」
「それで、中学のときとか、ひどいこと言われたりしたけどね。」
「そうなんだ。」
「いや、もう気にしてないけどね。」
電車が通り過ぎていく。
会話が中断する。
「よっつんはどうするん?」
「大学いきたいけど、まだ迷ってるよ。」
「そっかぁ、迷うよね。」
「あ、あとどれくらいならいける?」
飲みものを飲みながら、みゆは聞いてくる。
「そうだね、一時間かな。」
「わかった。じゃ一時間分話すわ。」
「オケ、つきあうよ。」
「それでさ。」
それで、二年生のはじめで知り合ってから、半年経ち、さらに過ぎ二年間。
仲良くなってそこから話して、ずっと話して、夜中に電話して、休みには、呼び出されて。
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