祖先の建国伝説(ホラ話)を読んで本気にした主人公がクソ努力して、強くなったら……
ケイティBr
無能のエドモンド
――暖炉の火がゆらりと揺らぎ、その柔和な光が古びた書斎を温かく照らしていた。
壁に沿って並ぶ書棚には、長い年月を経た書物がずらりと並び、中でも特に装丁の古い一冊が今夜の物語を約束していた。
屋敷の夫人、エレナ・アルヴェリアンは静かに一冊の本を手に取り、幼い息子エドモンドの横に優しく腰掛けた。
「今夜は特別な物語よ、エドモンド」母の声がやわらかく響き、暖炉のパチパチという音と調和してエドモンドの耳に届いた。
好奇心で輝くエドモンドの青い瞳が、ふわふわの布団に顎を乗せながら、「どんな物語?」と母に小声で尋ねた。
「私たちの家族の起源にまつわる物語よ、『バルダモア・ザ・マグニフィセントの伝説』」エレナが優しく語り始めた。
彼女の手にある古い本は、時間の経過で黄ばんでおり歴史の息吹が感じられた。
指先がそれぞれのページに触れる度、過去の囁きが耳元で響き渡るようだった。
――物語は、バルダモアが若き日に盗賊による襲撃で家族を失ったことから始まります。
深い悲しみと復讐の誓いを胸に魔術師への道を歩み始めたバルダモアは魔術の力を使って日々の糧を得て青年へと成長をしました。
若く雄々しく育った彼は、その魔術による圧倒的な武力を持って盗賊達を故郷から一掃しました。
すると人々が彼の元に集まってきて、バルダモアはその力によって理想の国を築き上げました。
しかし、その栄光は永遠には続かなかった。力が衰えたバルダモアは、かつて友と思っていた者たちに裏切られ、理想の国を失う悲劇に見舞われました。
「なぜバルダモアは人々から裏切られたの?」エドモンド少年の声には疑問と悲嘆がこもっていた。
「彼の過ちは、すべてを自分の力で解決しようとしたこと。やがて、彼の周りには自分の利益しか考えない奸臣たちだけが残ったのよ」
息を呑むエドモンドに対してエレナは、それにと付け加えた。
「これは我が家だけに伝わる秘密なの。他の人には話しては駄目よ。あなたのお父様にも秘密なの」
「うん、僕、他の人に話さないよ! 誰に聞かれても絶対に答えないっ!!」
その言葉にエレナは愛しい我が子の金髪を優しく掬い、目を細めた。
「実はバルダモアが使っていた力は、魔術ではなくて精霊魔法と言われる物なの。それはとても強大な力だけれど、それを使うたびに運命力を使失ってしまったの。バルダモアはそれを使い果たし、最後には人々との絆を失ってしまったのよ」
エレナは息子の手を優しく握りながら説明した。
エドモンドはしばらく考え込んでいたが、やがて――
「でも、僕はバルダモアみたいになりたい。強くて、間違えず、みんなを守れる人に!」と小さな宣言をした。
エレナは微笑みながら息子の額に軽いキスをした。
「偉いわ、エドモンド! でも、大切なのは力だけじゃない。心も同じくらい大事よ」
そう息子の耳元で優しく説いた。
「うん! 分かったよ!」
「ふふ、良い子ね。今日はもう寝なさい。またお話をしてあげるから……」
エドモンドはその言葉を胸に、ゆっくりと目を閉じた。
母親が出ていった部屋には静寂が訪れ、唯一、暖炉の火が時間の流れを刻んでいく。
この夜、エドモンドの心には、遠い祖先の伝説が新たな夢として宿ったのだった。
☆☆☆
時は流れ、あの夜から10年が経過した。
少年だったエドモンドは、今や立派な青年へと成長していた。
かつての誓いは心の奥深くに秘められていたが、魔術の才能は依然として開花せず、精霊魔法の謎も解けていなかった。
両親の期待を一身に受けながらも、彼はしばしば『無能のエドモンド』と陰で呼ばれることに心を痛めていた。
つづく
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