異世界の支配者にっ!~それっぽく活動して悦に浸っていたら、自分が過去に助けたヤンデレ美少女たちによって勘違いでどんどん話が進んでいた件~
リヒト
第一章
始まり
今でも色褪せることなく鮮明に覚えている。
「───っ!───っ!」
母親の金切り声と自分の身を意味もなく襲う暴力。
殺すなよ、という興味なさげな父親の言葉とその口に咥えられている煙草の匂い。
「……」
既に怒鳴られることも殴られることも慣れてしまった。
そんないつもの昼下がりの一日。
「……えっ?」
鮮血が舞った。
突如して父親と母親の家へと幾人もの顔を仮面で隠した男たちが侵入し、そのまま困惑する両親へと手際よく暴力を振るった。
あれだけ自分を強く打ち付けた母親が何も出来ず頭を叩かれて地面に倒れ、珍しく声を荒げる父親もすぐにその後を追って地面に倒れた。
「……」
そんな最中を僕はいつものように押し込まれていた押し入りの中でただ、ぼーっと見ていた。
「あっ、血」
いつも流している自分のものではない血。
地面に倒れ伏す両親から自分の元へと流れてくる血は何処か冷たかった。
「よっと……やれやれ、あまりおいたはするなや」
僕が血に触れ、戯れている間。
今度は新しく更に別の人間が家の中の方へと入り込み、その手に握られていた包丁のようなもので両親を殺した最初の侵入者たちを全滅させてみせた。
黒服に身を包んでいるその人の顔は窓の外で輝いている月の光によって照らされているはずなのによく確認出来なかった。
「うし、これで任務は完了っと……生存者は」
ここで、僕が出ていったのは実に単純な理由だった。
カッコいい。
すべてを薙ぎ払い、最後に立っていたあの人がただただ僕の目にカッコよく映ったのだ。
「貴方は、一体?」
自然と、僕は生まれて初めて自分の意思で押し入れから出てきて自分の姿をさらす。
「……ッ!?あ、あぁ……そうだな」
それに対して黒い人は僕の姿を見て、少しばかり驚きの表情を浮かべた後にこちらの方へと近づいてきて、頭を撫でてくる。
「世界の支配者。この世界を裏から牛耳る世界の支配者様だ。君が受ける不当な扱いからも、苦しみからも解放しに来たのさ。後は、安心すると良い。すべてが上手くいくだろうから」
不当な扱い。苦しみ。
それが何かはわからない。
でも、自分の頭を撫でる黒い人は良い人であると僕は半ば本能で理解した。
「それじゃあ、俺はここら辺で」
僕の頭を撫でていた黒の人は直ぐに自分へと背を向けて、この場から去っていく。
「……ぁあ、いつか僕もあの人のような世界の支配者に」
カッコいい。
だから、憧れた。
それが全てである。
「そしたら、───」
■■■■■
世界の支配者になるためにはどうしたらよいだろうか?
僕はそれを知るために多くのアニメを視聴した。
結果、表向きで偉そうにしているよりも裏側で世界を牛耳っている闇の人間の方がカッコいいと思った。
だから、僕の目的は世界を裏から支配する者になった。
それからの僕は頑張った。
世界を裏から支配するにはどうすればよいだろうか。
それをひたすらに考え、考え、考え、最終的な結論は力こそが正義だった。
アメリカ大陸を右フックで消し飛ばせるようになったら強制的に世界の支配者だ。力こそが正義。現在、抑止力とされている核を
僕は、世界のナノ兵器になる。
どうやって?
それが問題だった。普通に考えれば右フックでアメリカ大陸を消し飛ばせるはずがない。核を超えるというナノ兵器になるなんて無理な話。
どれだけ僕が鍛えても暴力団を壊滅させられるくらい。完全武装の軍隊には勝てないだろう。
日本の自衛隊にも勝てないのに世界の支配者にはなれない。
「無理やな」
冷静に考えて無理である。
発想の転換だ。
肉体じゃ無理だからもっと別の力……神の力に頼ろう。
僕は自分の幼馴染であり、神社を代々管理している家に生まれている少女を頼った。とりあえず神職に就くことにしたのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」
神。超常の力。魔力を僕は求めた。求め続けた。
僕は己の頭を岩に、大樹にたたきつけ、その身を滝へと投じ、意識をハッ〇ーターンの白い粉でぶん飛ばした。
「何しているのっ!?」
「魔力ぅ……」
「まだそんなこと言っているの!?」
魔力は未だ見つからない。
そして、問題は魔力だけじゃない。世界を裏から支配する者になってどうするのかという問題もある。
「……おーん」
戦争を消す?人の意思を無下にするのは駄目だよね。
己の欲を満たす?叶えたい願いは世界を裏から支配する者になりたいだけだ。
僕は何をしたいのだろうか?
「カッコよくなりたい」
それだ、カッコよくなりたい。
それこそが僕の最終ゴール地点である。
それじゃあ、世界を裏から支配する者ごっこしているだけで十分なのではないだろうか?
実際に支配したところで確実に持て余す。
ならば、
「やっぱり魔力いるやん」
理想のカッコいい自分になるにはやっぱり魔力が必要だ。
ごっこ遊びにもリアリティがいる。
実際に僕が世界を支配していると周りに思ってもらうための力が、超常の力がやっぱり必要だった。
僕が、魔力を求めることには何ら変わらない。
魔力を求めて。
魔力を求めて。
魔力を求めて。
……
……………
………………………
その果てで僕は魔力を発見した。
「ノーラ。今日も、月が綺麗だね」
「ん?そうだね。確かに、綺麗だ」
結果として綺麗な夜空に二つの月が輝く異世界へと転生したが、それはまぁ誤差だろう。
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