第5話

 扉からガタイの良い男が一名出てきた。出てきた瞬間は結構キツめの目線を向けてきたが、僕だと分かると一気に目元が和らいだ。

「あぁ、リュカ君か。久しぶりだね。そろそろあっちに帰ろうかと思って準備してたところなんだ。一体どうしたんだい?」

 彼は僕らを家の中に招き入れながらそう言う。狭いところだけど…と言いながらリビングのソファに座るよう促される。僕を信用しているからなのか、カミーユのことには特に触れられない。

「実はマグノリア公爵が…」

 僕は彼に事の全貌を話した。そして家族からの手紙も渡す。彼と同居している人たちの手紙も一緒に渡した。

「あぁ、状況はよく分かった」

 彼は深く頷き、目を瞑って深呼吸をする。そして黙り込んでしまった。だが、こういう時はそっとして置いた方がいい。

 彼は唸りながらしばらく考えた後、やっと言葉を口にした。

「本当は公爵に痛い目に合わせてやりたい。公爵令嬢の目の前で言うのは少し憚れるがな。勝算は低い。でももし、それが出来れば嫁さんと子供達を取り戻せるかもしれない」

 彼はそう言うと俯いたが、言葉は続ける。

「でも、嫁さんがそれはやめろって手紙で寄越してきたんだ。監獄とはいえ、毎日生きていけるようにはなっているし、大丈夫だと。嫁さんが変な言い掛かりで魔女裁判に掛けられたとしても子供達だけは助かると。俺だけには外で幸せになってもらいたいんだとよ」

 彼は目線を下から上に持っていき、僕と目を合わせる。悲しみ、苦しみ、不安、怒り。色々な感情がぐちゃぐちゃになって焦点を失いかかっている。

「なぁリュカ、俺たちはどうしたらいい?」

 なんと答えても正解ではない。だけど、どうにかして言葉を紡ぐ。

「騎士団員としては僕はあなた達を公爵領へ連れ帰らなければならないでしょう。直に公爵家からも帰ってくるよう書簡が届くはずです。

 でも今の僕は『休暇中』なんだ。あくまで彼女の騎士でしかない。だから僕個人として言わせてもらうと、隣国に亡命するのを勧めるよ。家族との約束を守るべきだ。それに、監獄に入れられた無実の女性達は隣国で売買されることが多いという情報がある。一生懸命金を貯めて彼女を買ったらいい。

 子供については…」

 すると、カミーユが急に話し出した。

「お子さんについては私に言わせてちょうだい」

 僕と彼は頷き、彼女に続きを話すよう促した。

「外には漏れてない情報だからやたらと拡散して欲しくないんだけど、子供達にまつわる内部リークがあるわ。私は授業の先生から教えてもらったんだけどね。

 実は監獄内で孤児にまつわる問題がたくさん起きてるのよ。食べ盛りだから食べ物の問題もあるし、成長するから服もたくさん必要。それに、そもそも子供達もほとんどが無実。

 そこで公爵領はそういう孤児向けの孤児院を作ろうと動いているわ。数少ないまともな貴族のおかげで準備も着々と進んでいるの。その孤児院はある程度の年齢に達すると職業を斡旋してくれることになるそうよ。

 そしてきっとあなた達の子供達はあなた達との再会を夢見て商売関連の職業につくことになるはず。だから安心して欲しいの」

 カミーユが話終わる頃には男は先程よりも落ち着いているように見えた。

「ありがとうございます、カミーユ様。調べても出てこない事をわざわざ。

 また明日会いましょう。仲間と話し合ってきちんと決めようと思います。僕だけで決めれる問題ではありませんし」

 話終わる頃にはすっかり窓から夕陽が窓から差し込み始めていた。

「分かりました。また明日お伺いしますが、急ぎすぎて寝不足になってまで話し合ったりとかしないで下さいね」

と、言いながら僕らはその部屋を出た。

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