とある魔女裁判をめぐる物語

鹿斗くれは

プロローグ

 僕はまだあの日のことを覚えている。忘れられるわけがない。君は炎と共に僕の元から去ったのだから。

 幼馴染であり、密かに想っていた彼女が濡れ衣を着せられた挙句、処刑された。本当は僕も彼女の身を焦がすその炎の中に飛び込んで死んでしまいたかった。でも、彼女の言葉がそうさせなかった。

「リュカ、来ないで!」

 教会の連中を振り解いて君の元へ向かおうとしていた僕に向けられたその言葉。僕は彼女の騎士。彼女の言葉には逆らえなかった。その隙にと奴らは僕を拘束した。猿轡をはめられ、何も喋れない。ただ、見せしめのように彼女が燃え、苦しむ姿だけを目に焼き付けさせられる。

 彼女は苦しみながらも、涙を流しながらも必死に笑顔を僕に見せようとしていた。余計に僕が苦しくなるって分かってなかったのかな……なんて、彼女がいない今、真相は誰も答えることはできない。

 僕が死ぬわけでもないのに彼女との思い出が走馬灯のように勢いよく駆けていった。溢れんばかりの涙が出るのに彼女を燃やす熱ですぐに蒸発してしまう。

 彼女が原型を留めなくなる頃には多くの見物人は既に去り、これ以上の危害はないだろうと僕の拘束も解かれた。最終的にその場には放置された彼女の遺骸と僕だけが残された。

 そして僕は誓った。彼女に代わって復讐をしようと。心優しい彼女がそんなこと許すはずがないと分かっている。けれどそうせずにはいられなかった。「彼女のためだけに生きる」と誓ったのにその彼女が死んでしまったのだから僕にはもう生きる価値がない。ならせめて死に場所を求めて負け戦をしようじゃないか。僕はそう考えた。

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