人魚姫
浬由有 杳
Act 1 やってきた王女
※以下の話は40分程度の高校演劇用の脚本として書いたものです。実際にいくつかの高校と大学の同好会で演じていただいたので、舞台装置なども簡潔にして演じることが可能です。
<登場人物>
● 人魚姫:人魚の末の姫
● 王女:隣国の王女 友好の証として王家に嫁ぐためにやってきた
● 王子:人魚姫が命を救い、恋した、小国の王子
● 侍女頭(侍女):王女の乳姉妹で王女とともに隣国からやってきた
● 姉姫(声のみ):人魚姫のすぐ上の姉
● ナレーション:声のみ ※実際に演じるときは省略可能
※ ナレーションと姉姫は同一人物でも可
※ 最小5人で演じることが可能だが、人数に余裕があるときは、家来や侍女などを出してもよい。
※幕間はあまり空かないようにBGMを入れるなどして工夫すること。
<場所設定>
ACT1、4、5 城の中庭
ACT2.3 海の見える離れの一室(王女の部屋)
★以上、設定でした。で、この後から話(シナリオ)が始まります。
* * * * *
<波の音。かもめの鳴き声>
ナレーション
「昔むかし、人間の王子に恋をした人魚の姫がおりました。恋は盲目とはよく言ったもの。恋に目がくらんだ姫君は、美しい声を代償に魔女から秘薬をもらい受け、ついには人間になってしまいます。首尾よく王子とめぐり合い、王宮でそれなりに幸せに暮らす人魚姫。このまま何事もなく幸せな日々が続けば、お話はハッピーエンド・・・。ところがうまくいかないのが人の世の常。悲劇は突然襲い来るもの」
【幕開き】
<お城の中庭。夕暮れ時のホリ。地明かり>
王子、中庭のベンチにぼんやりとした様子で座っている。
上手から人魚姫が上着を手に現れる。
人魚姫、そっと王子に近づいて、肩に手をかける。
王子「人魚姫に気づいて)おや、わざわざ探しにきてくれたのかい。(下手側、斜め正面の海を指して)ほら、見てごらん。ここからは海が良く見える。今日はとても波が穏やかだ」
人魚姫、上着を王子に着せかけようとする。が、王子がやんわりとその手を押さえる
王子「必要ないよ。春の夜風は心地よい。(なおも着せ掛けようとする人魚姫に)わかった、わかった。ありがとう。たしかに風邪を引いてはまずいかな」
王子、素直に上着を着る。
人魚姫は城の方(上手)を指差して王子の顔を見る。
王子「みんなが探してるって?ああ、もうすぐ歓迎の宴が始まる時間か。(少しの間。王子、面白くなさそうに)隣国の王女か。噂では、かなりわがままで気まぐれな女とか。父上に今朝呼ばれたよ。くれぐれも粗相のないようにと。私の未来の妻なのだからと。父は私の意見さえ聞かなかった。私には伴侶を選ぶ自由もないんだ」
ため息を吐く王子。なだめるようにそっと触れてくる人魚姫。
王子「すまない。愚痴を聞かせてしまった。政略結婚など別に珍しいことじゃない。隣国は大国だ。婚姻の絆を結ぶことはわが国の利益になる。 王子としての義務だとはわかってるんだ。でも・・・」
王子、遠い目をして再び、海を眺める。
王子「忘れられないんだ。あの日、私を助けてくれたあの尼僧が。冷え切った私を温め、命を救ってくれた、名も知らぬ人が。もう二度と会えない とわかっているのに・・・おかしいな。他の誰にも言ったことはないのに。おまえだけだよ。こんなことが言えるのは」
自分こそが王子を助けたのだと人魚姫は必死に伝えようとするが、王子には全く通じない。
人魚姫、腕を揺らめかせたり、高く低く振り回したりして嵐を表現しようとする。また意識を失ってぐったりした王子を抱きかかえて 泳いだことを示すジェスチャーを懸命に続ける。
王子「あたらしい踊りの振り付けかい?なかなか斬新だね・・・おや、誰だろう、今頃?」
上手から王女、続けて侍女が、言い争いながら登場。
侍女「お待ちください、姫様」
王女「茶番はもうたくさん。わざわざ、宴なんて開いてくれなくても結構。断ってちょうだい。到着したばかりで疲れてるから今日は遠慮させてもらうって」
侍女「姫様を歓迎するための宴(うたげ)ですよ。断るわけにはいきません」
王女「主人の意を汲んで、そこをなんとかするのがお付きの役目でしょ。適当な理由を見つけて」
侍女「主人を正しい道に導くのがお付の役目ってもんです。ここはもうお国でも僧院でもないんです。王様も姫様に期待しておられます。一国の王女らしくふるまってください」
王女「期待してる?あの人が?一国の王女ですって?母上が亡くなってから、つい先日まで会いに来もしなかった人が?あの人は政略結婚の手駒が欲しいだけよ」
侍女「姫様!」
王女、立ち止まって侍女の方を見る。
侍女「お願いですから、そんな言い方、なさらないでください」
王女「・・・悪かったわ。お前に当たっても仕方ないのに。(茶化すような口調になって)お前もとんだとばっちりよね。こんな辺鄙な、異国にまで駆り出されて」
侍女「乳兄弟の私くらいしかできませんからね。こんなわからず屋の姫様のお相手は」
王女「(憮然として)わからず屋なんかじゃないわ」
侍女「じゃ、わからず屋じゃない姫様、そろそろお部屋でお召し代えを。まさか、宴が怖いからお逃げになるわけじゃないですよね」
王女「もちろん、逃げやしないわ・・・。(ツンと顔を上げて)見てらっしゃい。完璧な王女っていうのを拝ましてやるから」
侍女「そう、そう。それでこそ姫様」
二人が引き返そうとしたところに、それまで様子を窺っていた王子が進み出る。
王子「もしかして、あなたは、あのときの・・・?」
突然声をかけられ、当惑気味に振り返る二人。
王子「覚えてませんか?私です。あの嵐の夜、助けていただいた」
王女「嵐の夜?」
王子「確かにあなただ。溺れかけた私を助けてくれたのは。名前も告げずに去ってしまった人は」
王女「(漸く思い出した様子で)ああ、あのときの」
侍女「あのときとは?」
王女「ほら、僧院を抜け出して嵐を見にいったとき」
侍女「ああ。姫様が行方不明になって大騒ぎになったあの?」
王女「そう。言わなかったっけ?浜辺で男を拾ったって?」
王子「(感激も露わに)まさか、もう一度お会いできるなんて」
王女「その節はどうも。よかったわ。元気になられたようで」
侍女「姫様、王女たるもの軽々しく見知らぬ輩(やから)に声をかけるものでは・・・」
王子「王女?もしかして、あなたが隣国から来られた姫君?」
王女「まあ、一応」
王子「おお!なんという偶然!なんという奇跡!あなたこそ私の運命の人だ!」
王女「(大いに引き気味に)は?なんですって?」
王子「失礼しました。改めまして、私はアルフォンソ。[←適当なものを付けてください]この国の第1王子であなたの婚約者です」
王子、恭しく王女の手を取ろうとするが、かわされる。
王女「あなたが王子ですって!」
めげずに王子が再び手を差し伸べる。
王子「どうぞ、お手を。お部屋までご案内します」
王子、まだ引き気味の王女の手を強引に取ってエスコートしようとする。
その腕を背後から人魚姫が掴む。
王子「(やさしく人魚姫の手を振りほどいて)お前は先に戻って着替えてなさい。大丈夫。遅刻はしないよ。姫君をご案内してから私も戻る」
人魚姫、仕方なく、王子の手を離し、王女をにらみつける。
王子は王女にばかり気を取られて心ここにあらずといった様子。
王女「(辟易しながら)別に案内していただかなくても…」
王子「それでは私の気がすみません。どうかご案内させてください」
王子に半ば引きずられるようにして、王女、去っていく。
侍女「ちょっと、姫様、待ってください。姫様!」
呆気にとられていた侍女が慌てて後を追う。
人魚姫、一人取り残される。
<海の音>
顔を上げて海の方(下手斜め前)を見つめる人魚姫。
<青のホリデント。段々大きくなる波の音。照明、フェードアウト>
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