そして還るもの

諏訪彼方

プロローグ

「私は3年前、とある海のとある浜辺で横たわっていた…らしい」


※ ※ ※

 学校から家に帰ると、既におかあさんが職場から帰って来ていた。私の存在に気づくと、無言で手を差し出してきた。求められていることはすぐに分かった。訴えかけていることはこうだ。

「すべての科目のテストの答案用紙を見せなさい」と。

 私は頷き、通学カバンからクリアファイルを取り出し、さらにそこからすべての科目の答案と、一部の科目の問題用紙を取り出し、その前におかあさんに渡した。おかあさんは、一通り目を通し終えると、何度も何度も頷きながら万年の笑みを浮かべていた。どうやら、この結果もお気に召したみたいだ。

「すごいじゃない!あなたは昔から頭が良くて賢くて誰よりも優しくて本当にいい子ね!いつもの素晴らしい知らせを見れて私は嬉しいわ!」

「昔からって…3年前からの私は、でしょう?」

「ううん、私には分かるわ。あなたは多分、きっと小さい頃からそういう才能を持っていたんだと思うわ。きっとあなたは昔から何をやっても要領が良かったんじゃないかな?」

「そうなのかな?もしそうだったのなら、嬉しいけどね」

 

 国語100点、数学98点、英語100点、地理98点、理科94点、家庭科98点、保険94点。今回も誰にも文句を言わせない結果、成績、点数を収めることができた。自分でも満足できる成果だ。


 おかあさんとのやりとりを終え、自室に入ると、またすぐに勉強を始めた。今の私には、帰って来たら夕飯まで勉強する。という生真面目すぎるといろんな人に言われそうな習慣が当たり前になっている。みんなが言う「~のゲームのあのキャラが〜」「最近出てきた~のアイドル」「今はやりのあの動画が〜」というコンテンツに全く興味が沸かない。

 ある時、おとうさんに「おとうさんとゲームをやらないか?」というお誘いを受けたことがあるけど、それすらもやんわりと断ってしまうくらいだ。勉強するのが苦ではないし、むしろ勉強以外の事に少しでも時間を割きたくなかった。


 なりたい職業があるわけでもない。夢があるわけじゃない。ただ、高校受験という来るべき日のためにひたすら準備をするだけ。

そんな私を見て、クラスメイトは敬遠したりするかなと思っていたけどそんなことはなく、純粋に私を褒めてくれるし、私に「よかったら勉強教えてくれないかな?」と言ってくれる人がちらほらいた。友達も何人かでき、やがてテストの点数を競う間柄にまでなった。


 そして、あれよあれよのうちに文化祭や体育祭といったイベントは過ぎ、進路はどうしますか?という時期がクラスメイトにも、もちろん私にもやってくる。私は、特に進路に希望はない。


 さぁ、どうする?私。

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