第23話 映画の約束

あれから、俺はハルマから離れなくなった。


タツオミは何もなかったようにいつも通りだった。

ハルマからも何も言われないので、怪しまれていないようだ。



ユイちゃんからは、勉強会をねだられたが、タツオミの家は無理だと伝えた。

でも意外なことに、それからもユイちゃんは俺に数学を聞きに来た。



「タツオミ君もハルマ君も、頭良すぎて、何言ってるかわかんないんだよね。」


ユイちゃんはそう言って笑った。


「ああ、わかる。ホント、何考えてるかわかんない。」


意味は違うけど、共感した。


「あたしは、リョウスケ君の教え方が一番わかるよ。何か、あたしみたいな出来ない子の気持ちがわかるんだな、って。」


ユイちゃんは、変なところが気になるタイプだ。

タツオミの優れた解説を聞いても、少しイメージが湧かないところがあると先に進まない。

そのつまずきポイントがまた、勉強してる人からしたら、さしたところじゃないのが憎いところだ。



「俺も、得意じゃないからさ。しかも俺の場合、受験科目なのに、やばいよね。」


「私なんて、もう諦めちゃったよ。」


ユイちゃんが髪をかきあげる。


「最近、リョウスケ君変わったよね。彼女でも出来たの?」


「いや、彼女はいないよ。」


彼女は、ね。


「そうなんだ。まあ、いつもハルマ君と一緒にいるもんね。」


はい、そうです。


「今度、みんなで遊びに行かない?」


「いいね。もうすぐ夏休みだし。」


そう答えつつ、”みんな”という言葉が引っかかった。


「あのさ、そうなったら、タツオミとかハルマにも、声かけた方がいいの?」


「え?なんで?」


「まあ、なんていうか、俺はそういう役回りなんだよ。ハルマはモテるから、女の子からしたら、俺と仲良くしつつハルマ狙い……みたいな。ユイちゃんも、タツオミと本当は仲良くしたいんじゃないの?」


嫌な言い方をしてしまった。



「仲良くしたいのは、タツオミ君だけじゃないよ。リョウスケ君とも最近一緒に勉強できて嬉しいし、助かってるよ。」


ユイちゃんがさらりと言った。


勉強……助かってるって思われてるのか。


ふと、タツオミの勉強会のお礼のキスについて思い出された。

仮に、ユイちゃんに俺が勉強会をして、ユイちゃんにキスを迫ったら、人としてヤバイだろう。

それをタツオミとはやってしまっている。

俺がお礼にこだわりすぎたせいだ。

感謝はいいにしても、何らかの対価は気にしすぎだったかもしれない。



「そう思ってくれてるならいいけど。」


もし、お礼をしたければぜひ!とも思う。




「ねえ!週末、一緒に映画行かない?コレ、観たかったんだよね。」


ユイちゃんはスマホで映画情報を見せてくれた。


「へえ!面白そう!行くよ。」


と、言いつつも、ユイちゃんが気になる映画は恋愛映画で、あまり興味がなかった。

俺はアクション映画くらいしか観ない。


スマホを見せようと寄ってくれた時に、制服のブラウスから胸の質量が感じられた。

ユイちゃんの私服が楽しみすぎる。


こうして、週末の休みに行くことになった。



「ユイちゃんって、彼氏いるの?いたら、二人で行くのはまずいかな、って。」


リカちゃんの時の教訓だ。

だが、もはや彼氏がいても、おっぱいがあるならそれでいい。


「彼氏はいないよ。じゃなきゃ、誘わないから。」


ユイちゃんはそう言って笑う。


意外と彼氏がいたらガードがかたいんだろうか。

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