第3話 ランニング

落ち着くために、トイレに移動した。


ハルマが女の子なら、最高なのに……。

そんな無駄なことを思ってしまう。



ハルマは小さい頃から頭が良くて、落ち着きがあった。

だからといって、リーダーはやらない。

集団の中ではいつも控えめだった。


なぜか俺と二人で遊ぶのが好きで、他に友達ができても、なぜか二人で遊ぶ形に戻ってしまう。

なんで、居心地がいいのかは、自分でもよくわからなかった。




部屋に戻ると、ハルマはまだスマホを打っていた。

俺のニセ同性愛者情報が拡散されていく。


そっと、元の場所に座る。



「……お世話になりました……。」


「あはは。なんだよソレ。」


「なんでお前は平気なの?」


「平気じゃないけどさ、なんだろ。興味が薄いのかな。」


「いいなぁ。なんか最近、おさまらないんだよ。バカなんじゃないか、って、本当自分が嫌になる。」


「そうなんだ。思春期だから。」


「そう、思春期なの。やっぱり部活入れば良かったかな。失敗した。」


有り余る体力と性欲は、勉強では解消出来なかった。



「ランニングする?付き合うよ。」


「あー……それいいかも。うん、そうしよう!」



元々俺はスポーツが好きなのだ。

でも、ハルマと同じ高校にいくためにちょっと偏差値高めの学校にした結果、勉強が大変になり、部活は諦めた。

本当はバスケ部に入りたかった。


俺の親は勉強に無頓着で、進路の選び方なんて全然わからなかった。

ぶっちゃけ、高校ごとに教科書すら違うことも入学してから知った。

入ってからのことを事前に調べておけばよかった。

ただ、知ってたら、別の高校にしていたかもしれない。

ハルマに言われて、知らないままだったから頑張れたとこはある。


ハルマは剣道部だった。

似合っててカッコ良かったから、続ければ良かったのに。



さっきのピンク色の空気から変わって、勉強にも手をつけれそうだ。

二人で教科書を開いた。



――――――――――――


翌日もいつも通りにハルマの部屋に行く。


まるで条件反射のように悶々としてきた。

今日からは……キスなら頼めばできる。

友達としていいんだろうか、って気もするが。



「ランニング行く?」


そう聞かれて思い出した。

そうだ!ランニングするんだった!


「そ、そうだね、行こうか……。」


「……それとも、もうキスする……?」


そんな、

ごはんにする?お風呂にする?それとも……

みたいな会話、実際にあるんだ。



「あ、いや、ランニング、行こう!今キスしたら、ダメな気がする。」


今キスしたら、多分、毎回部屋に入ったらキスするように俺がしつけられてしまう。

それはダメだ。



ジャージに着替えて、走りながら河原に向かう。

俺はただの体力バカで、バスケは上手いわけじゃなかった。

逆にハルマは運動神経が良くて、なんでもそつなくできた。

そりゃモテるでしょ、って感じだ。


背が低いことがコンプレックスみたいだが、女子よりは大きいんだから、悩みのうちには入らないだろう。

今もガンガン走れてる。




河原に着いた。

夕陽がキレイだ。

川の流れも清々しい。

自分たちの他にも本を読んだり、散歩している人がいる。


本格的にストレッチをする。

久々に思い切り動いて気持ちがいい。

市民向けのジムにも行こうかな。


ハルマを見ると、柔軟をしている。


「体、柔らかいよね。」


「そうだね。昔から体は柔らかいよ。」


自分は体が硬いから、地面に簡単に手がつくのが羨ましかった。


「じゃあ、一往復くらいする?」


そう言われて河原を走る。



――――――――――――


家に戻ると、ハルマがシャワーを使っていいと言ってくれた。

男子の汗臭さは半端ない。

ご好意に甘えることにした。


今日は健全に欲求不満を解消して、自尊心に満ち溢れていた。

そうだ、これでいい。




部屋に戻ると、冷たい飲み物が用意されていた。


「ごめん、なんか至れり尽くせりで……。」


「ああ、別にいいよ。俺もシャワー浴びてくる。」


部屋に残され、飲み物を飲みながらスマホを見る。




友達からメッセージが来ていた。


『お前、ハルマと付き合ってるんだって?もう、女子の間ではみんな知ってるみたいだよ。』


『そんなわけないから。ハルマが断る口実に俺を利用してるだけだって(笑)。』


『もし、お前を好きな子がいたら、お前を諦めるかもしれないじゃん。いいの?』



なんだって!

そんなこと、考えたことがなかった。

それなら即告白してほしい。

そんな弊害があったとは……。



『ハルマといると、彼女できないと思うよ。ハルマは、お前が好きな子にわざと優しくして、お前とくっつかないようにしてるんじゃないかな。』



え?

それも考えたことがなかった。

確かに、ハルマは女の子とも自分から話せる。

だから、ハルマは女好きだと思っていた。


ハルマが、俺の恋路を邪魔するメリットはないから、わざわざそんなことはしてないと思うけど……。




そんなやりとりをしていたら、シャワーを終えたハルマが戻ってきた。


「リョウスケは、化粧水とかつける?」


「いや、全然。」


「俺、肌が荒れやすいからつけてるんだけど、試してみない?」


「うん、じゃあ。」



ハルマは自分の手に化粧水をつけると、俺の頬に塗り始めた。

普通、瓶ごと貸さない?



「少し、手の温かさであっためながらつけるといいんだって。」


「そ、そうなんだ。」



ハルマがじっと俺の頬を両手で挟んでいる。

なんとなく見つめ合ってしまった。


昨日のことが思い出されて、なんか緊張してきた。



「……キス……する?」


つい聞いてしまった。


「……いいよ。」


ハルマの腰を引き寄せてキスをした。

シャンプーの優しい香りがする。

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